JH1LHVの雑記帳

和文電信好きなアマチュア無線家の雑記帳

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CW ゼロインツールの製作 ①

最近は SINAD 計の製作でマイコンを使う機会が増えており、特に FFT(高速フーリエ変換)を活用した処理をいろいろ試していました。その流れで、せっかくなので何か別のツールも作ってみようと思い立ち、今回は「CW ゼロインツール」を試作してみました。

CW のゼロインを行うツールとしては、アナログ回路を使ったものが以前から知られています。中でも、NJM567 というトーンデコーダ IC を使った方式は有名です。しかし今回は、もっとデジタル寄りのアプローチをとることにしました。

このツールでは、受信機から聞こえてくる CW 信号の音(トーン)をマイコンに取り込み、FFT 処理を行ってその周波数成分を分析します。そして、現在聞こえているトーンのピーク周波数と、ゼロイン時に目標とするトーン周波数との「ずれ(差分)」をリアルタイムで表示します。この差が限りなくゼロに近づくように無線機の周波数ダイヤルを調整すれば、正確なゼロインができるという仕組みです。

使用するマイコンには、以前自作した SINAD 計の「MSStack Core2」を使用しました。この SINAD 計にはオーディオ入力用の回路を追加してあるため、受信機の外部スピーカー端子から直接 CW 音を取り込むことができます。また、M5Stack 用の外部マイクユニットを使って音声を入力する方法にも対応させたので、接続方法は用途や環境に応じて選べます。



ちなみに「ゼロイン」とは、相手局が送信している周波数(搬送波)と、こちらが送信する周波数(搬送波)をぴったり合わせることを意味します。CW 運用では、これが正確にできていると、相手にとっても非常に聞き取りやすくなります。

最近のトランシーバーには、CW のオートゼロイン機能が標準で搭載されているものが多く、たとえば ICOM の IC-7300 にはフロントパネルに「AUTO TUNE」ボタンがあり、ワンタッチでゼロインしてくれます。ですが、古い機種や自作機ではそうした機能がないことも多いため、今回のツールは、そういった無線機をお使いの方にとって実用的なサポートになると思います。

技術的な仕様

  • サンプリング周波数:8KHz
  • 適応的ノイズ判定:起動時の環境測定により、動的に閾値を調整
  • デュアル入力:ライン入力とマイクユニットに対応
  • 分解能:約3.9Hz

使用方法

画面上に表示されている「TARGET(目標周波数)」に対して、「ACTUAL(現在の周波数)」がぴったり一致するように、無線機のダイヤルを微調整しながら受信音(モールス)を合わせていきます。

周波数が一致すると、「DIFF」表示が “ON TARGET” に変わり、この状態が相手局の送信周波数に正確にゼロインできたことを示しています


試験的に 570Hz のモールス信号を意図的に送信してみたところ、「DIFF」には「-30Hz LOW」と表示され、バー表示にも 550 と 600 の間に青い丸が現れます。
これにより、視覚的にも周波数のズレを確認しながら調整できるようになっています。

以下に、ゼロインの仕組みについて簡単にご説明します。
内容に誤りがある場合は、随時修正いたしますので、あらかじめご了承ください。

CW ゼロイン、CW トーンとサイドトーンの関係について

CW での運用においては、「受信音(CW ピッチ)」と「送信時のモニター音(サイドトーン)」がそれぞれどのように作られ、どう関係しているのかを正しく理解しておくことが大切です。

特に、相手局と周波数を正確に一致させて交信する「ゼロイン」を確実に行うためには、BFO(Beat Frequency Oscillator)とサイドトーンの動作原理や設定方法についての知識が欠かせません。

ここでは、CW の基本から始めて、ゼロインの実践方法まで、実例を交えてわかりやすく解説していきます。

1. CW 信号はなぜ “聞こえる” のか?

CW は搬送波をオン・オフすることで情報を伝えていますが、搬送波そのものには音がなく、人間の耳では直接聞き取ることができません。

ここで使われるのが、受信機内部にある BFO(Beat Frequency Oscillator)です。BFO は、受信した CW 信号とわずかに周波数がずれた信号を生成し、その差によって “ビート音” を作り出します。

たとえば、受信周波数が 14.050.000MHz で、BFO が 14.050.600MHz で動作していれば、600Hz のビート音が生まれ、スピーカーから「ピーピー」と音が聞こえるというわけです。

このビート音の周波数、すなわち受信音の高さが「CW ピッチ」です。

2. サイドトーンとは? 送信時のモニター音

CW の送信時には、電鍵の打鍵に応じて搬送波がオン・オフされますが、送信中に自分の電波を直接耳で聞くことはできません。そこで、送信時のキー操作を音で確認するためのモニター機能として使われるのが「サイドトーン」です。

サイドトーンは、無線機内部で別途発生させたトーン信号であり、送信そのものには関与しません。そのため、BFO とは基本的に独立した回路で動作しています。

通常は CW ピッチとは別に、サイドトーンの周波数と音量を自由に設定できます。

3. CW ピッチとサイドトーンの関係

CW ピッチ(受信音の高さ)とサイドトーン(送信時のモニター音)が必ずしも同じになるとは限らない点は、CW 運用においてよくある混乱の原因です。

受信音は BFO によって決まる

受信時は、CW ピッチで設定した周波数差に基づき、BFO が生成した信号と受信信号が混合され、その差が可聴音として聞こえます。

サイドトーンは送信時の独立モニター音

サイドトーンは、送信時にオペレーターの耳に届く確認音で、BFO とは関係なく生成されます。そのため、CW ピッチを 600Hz、サイドトーンを 500Hz に設定すると、それぞれ異なる音程になります。

4. ゼロインの実践と重要性

「ゼロイン」とは、自局の送信周波数と相手局の送信周波数(≒受信周波数)を正確に一致させることです。CW 交信においては、互いの周波数がずれていると、交信に支障が出るため、正確なゼロインが欠かせません。

例:

・相手局が 14.050.000MHz で送信している
・自局の受信機を 14.050.000MHz に合わせる(自局の送信周波数も14.050.000MHz です)
・これでゼロイン完了

そして、ゼロインは無線機の BFO の周波数に受信機で聞こえるトーンを合わせる必要があり、1970-80年代の機種では 800Hz 固定が主流でした。

・KENWOOD:800Hz デフォルト?
・YAESU:700Hz デフォルト?
・ICOM:600Hz デフォルト?

最近の機種は、BFO と CWトーンが連動しており、しかも任意に調整も可能で、機種によっては、ボタン一つでゼロインすることができます。

5. CW ピッチとサイドトーンが独立している理由

Yaesu FT-891など、一部の機種は、サイドトーンと受信トーンを独立して設定できるものもあります。IC-7300 は、残念ながら個別の設定はできません。

実際の運用を考えると、CW ピッチとサイドトーンを独立させた方が便利であると考えています。

  • ノイズ環境への対応
    ノイズが多いときは、特定の音域を避けるために CW ピッチだけを変更することがあります。サイドトーンが連動していると不便です。
  • スプリット運用や DX 交信への対応
    一部の運用では送信と受信の周波数をあえてずらす場合があります。そのときでも、サイドトーンは自分のモニター周波数として変化することなく一定に保てると便利です。
  • DSP フィルターとの整合
    CW ピッチに応じてフィルターの中心周波数が変わる無線機では、フィルタリング性能を最大限活かすためにピッチ変更が必要です。その際、サイドトーンを固定しておける方が実用的です。

6. ICOM(IC-7300)の場合

IC-7300 の CW 運用では、「CW PITCH」という項目で受信時の CW トーンの周波数と、送信時に自分の耳に聞こえるサイドトーンの周波数(SIDETONE)が同時に設定されます。ICOM の多くの無線機が連動仕様になっています。

  1. マルチファンクションメニューを表示
  2. 「CW PITCH」をタッチ
  3. ツマミを回して好みの周波数に設定

たとえば、CW PITCH を 600Hz に設定すると、受信時の CW トーンも送信時のサイドトーンも 600Hz になります。

この IC-7300 では、フロントパネルの「AUTO TUNE」ボタンで一発でゼロインすることもできます。
(ちなみに、Yaesu FT-950 ではバー表示によってゼロインの状態を視覚的に確認しながら調整することができました。私は、一発で合わせられる「AUTO TUNE」よりも、この方式の方が好みに合っています。)
 

7. CW 運用のコツ

  • 初心者はまず 600Hz 前後のピッチから始める

  • 運用環境(室内・移動・ノイズの多い場所)ごとにプリセットを使い分ける

  • 疲れやすいときは、500Hz 程度の低めのトーンにする

8. まとめ

CW 運用において、「受信音」と「送信モニター音(サイドトーン)」は、それぞれ別の仕組みで作られています。

  • BFO(Beat Frequency Oscillator) → 受信信号を可聴音に変換する回路

  • サイドトーン → 送信操作を音で確認するためのモニター機能

この2つの音程を一致させておくことで、正確なゼロイン(送信周波数と受信周波数の一致)が行いやすくなり、交信の効率も向上します。

たとえば、BFO とサイドトーンを 500Hz に設定している場合、相手の CW 信号が受信時に同じ 500Hz の音程で聞こえるように、受信周波数をダイヤルで調整することで、相手局に正確にゼロインすることが可能です。

このとき、オペレーターが自分のサイドトーンの音程を耳で覚えていれば、聞こえてくる CW 音をその音程に合わせるだけでゼロインができます。しかしながら、それにはある程度の音感が必要となるため、すべての人にとって簡単な作業とは言えません。

そこで今回製作した「CW ゼロインツール」は、耳での判断を補助し、より正確に相手局の送信周波数に合わせるための実用的なツールとして活用できます。


今後は、マイクを搭載した M5StickC Plus2 や、その他の小型マイコンを使った同様のゼロインツールの試作も進めていく予定です。