QRP とは。
ウィキペディアによれば、
QRP(QRP運用)とは、アマチュア無線において空中線電力を低減して運用することである。Q符号で「こちらは、送信機の電力を減少しましょうか?」を意味する"QRP?"に由来する。QRPの対義語はQROである。
また、電波法には「無線局を運用する場合においては、空中線電力は、(中略)通信を行うため必要最小のものであること」と定義されています。
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430 メガをワッチしていたある日のこと。
59 で入感です。
こちらは2階の部屋からハンディ機で QRP 運用しています。
アンテナは付属のヘリカル、QRP の1ワットで信号弱くてご迷惑をお掛けします・・・
確かに、送信出力だけを見れば、1W(最大でも5W)までがQRPとされていますので、それは間違いありません。
ただ、私としては「ハムの QRP」といえば、単に送信パワーの話にとどまらない、もっと広い意味を持つものだと思っています。
今日はそんな話をしたいと思います。
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アマチュア無線におけるQRP運用とアンテナ技術の重要性
QRP 運用は、小さな送信パワーで電波をしっかりと届ける技術を象徴するものです。言い換えれば、QRP 運用の成否はアンテナの性能に大きく左右されるといえます。
現在では自作無線機が減少し、QRP は単に「5W 以下の送信出力を持つ無線機」として認識されがちです。特に、V/UHF バンドのハンディ機が普及しており、これを効果的に運用するにはアンテナの改良が欠かせません。送信パワーが小さくても、クリアな通信を実現するには、アンテナがカギとなるのです。
また、QRP 愛好家の中には、より良い通信を求めてロケーション選びにこだわる方もいます。山頂や高層ビルなど電波伝播に適した場所で運用することで、小さなパワーでも遠くまで信号を届けることが可能です。
一方で、室内でハンディ機を用いて QRP 運用を行う際、多くの場合、通信が不安定なのはアンテナ性能が不十分なためです。「信号が弱いのは QRP だから」と片付けられがちですが、実際はアンテナの質による影響が大きいのです。
QRP の本質は、「相手に明瞭な信号を届けること」です。送信出力が小さくても、相手がしっかりと受信できることが QRP 運用の前提条件です。アンテナの性能が低いと、送信信号の強度だけでなく受信能力も低下し、交信可能な範囲が狭まり楽しみが半減してしまいます。
しかし、少しの工夫で状況は大きく改善できます。例えば、アンテナを室外に設置するだけで通信範囲が広がり、アマチュア無線の楽しさが一段と増します。アンテナに手を加えるだけで、新しい世界が広がるのです。
QRP 運用には、その難しさと同時に大きな楽しさがあります。本日は、QRP 運用の核心である「送信出力」と「アンテナ」、そしてそれらが関係する「実効輻射電力(ERP)」について考えてみたいと思います。
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実効輻射電力とは、
「空中線に供給される電力に、与えられた方向における空中線の相対利得を乗じたものをいう。」(電波法施行規則第2条第1項第78号)
簡単に言うと、送信機からアンテナを通して空間へ放射される実際の電力を表す指標です。
例えば、送信機の出力をパワー計で測定した結果がピッタリ 10W だったとします。しかし、この 10W はあくまで送信機自体の性能やスペック上の話であり、実際にアンテナから放射される電力とは異なります。
その理由は、送信機とアンテナが同軸ケーブルで接続され、電力がこのケーブルを通じて伝達される過程で損失が生じるためです。さらに、アンテナの設計やマッチング状態によっても放射されるパワーが変化します。
具体的には、送信機からの出力 10W が同軸ケーブルを通る際にロス分で減衰し、アンテナに伝わります。そして、アンテナの利得によって増幅され、最終的に空間へと放射されるのです。
実効輻射電力は、これらの要素を総合した結果として求められるもので、電波伝播の効果や通信品質を考える上で重要な指標となります。
図中のAでは、ハンディ機(1W出力)に 2dBi のヘリカルアンテナを使用した場合、実効輻射電力(EIRP)は 1.585W となります。
一方、図中のBでは、同軸ケーブルのロス(給電線損失)が 0.5dB、アンテナゲインが10dBi、さらにアンテナとの整合が完全に取れていると仮定すると、EIRP は 89W になります。
dBiとdBdの違い
アンテナゲインの「dBi」の「i」は、アイソトロピックアンテナ(完全等方性アンテナ)を基準にした絶対利得を表しています。アイソトロピックアンテナとは、すべての方向に等しい強度で電波を放射する理論的な点アンテナのことで、現実には存在しない理想的なモデルです。
一方、半波長ダイポールアンテナを基準にした相対利得は「dBd」で表記されます。この dBd を基準にした実効輻射電力は ERP(Effective Radiated Power)と呼ばれます。
実用性の観点から
ハムの実運用を考えると、理論的なアイソトロピックアンテナを基準にした dBi よりも、実態に即した半波長ダイポールアンテナ基準の dBd を使うほうが現実的だと考えます。
ちなみに、アンテナカタログの利得表記はほとんどが dBi を採用しています。これは、dBi のほうが dBd よりも少し大きな数字になるため、営業的な観点から「利得が高いように見せられる」ためだと推測されます。
例えば、半波長ダイポールアンテナの絶対利得は 2.15 dBi と知られているため、dBd 表記ではこの分だけ低い数値になります。この差を埋めるために、カタログ表記で dBi を採用するケースが多いのかもしれません。
ちなみに半波長ダイポールアンテナ基準の相対利得 dBd で考えると、
図中の B は、
dBd = 10W × 0.89 (-0.5dB) × 6.1 (10dBi - 2.15dBi) = 54.3W
これにより、dBi 表記の 89W に比べて 30W 以上の違いが生じることがわかります。
つまり、10W の送信出力を持つ場合、半波長ダイポールアンテナから 54.3W で送信した時と同じ電波強度になるという意味です。一方、dBi 表記では理論的なアイソトロピックアンテナから 89W で送信した場合と同じ電波強度になると解釈されます。
アンテナで変わるQRPの実力
仮にハンディ局 A が、15dBi の八木アンテナを使用した場合、1W のハンディ機でも実効輻射電力は約 30W にまでパワーアップします。この結果、送信性能が向上するだけでなく、受信感度も劇的に改善されます(30W のブースターを挿入するよりもはるかに効率的です)。
さらに、ハンディ局 A が 20dBi のスタックアンテナを使用した場合、実効輻射電力は図中のBと同じ 89W に達します。この状態では、AとBの双方で同じ電力が放射されることになります。
これこそが QRP の真髄です。
小さな送信パワーでも、アンテナの工夫次第で信号をしっかりと相手に届けることが可能なのです。
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QRPer の腕の見せ所はアンテナ技術にあり
ということで、QRPer の真価は、卓越したアンテナ技術を駆使して、いかに相手に強力な電波を届けられるかにかかっています。
「QRPだから相手に弱い信号で届いても仕方ない」と考えるのではなく、
「QRPだからこそ、アンテナにこだわり抜いています」と胸を張って答える方が、真のQRPer らしい姿ではないでしょうか。
たとえ 10mW の微弱な QRPp でも、相手に 59+ の信号を届け、さらに相手の信号も 59+ で受信する。
そんな高度なアンテナ技術と設備を追求してみたいものです。
「どうだ、QTH〇〇から 10mW で送信してるぞ。電波、強いだろう!」と、自信を持って言える日を目指してみたいですね。