ハムフェア 2026 の会場で、アイコムの新製品 IC-7110 について、担当の方に何点かお話を伺ってきました。
この新製品は HF~430MHz をカバーするオールモードトランシーバーで、液晶を搭載したコントローラーと本体がセパレートになったタイプです。IC-7100 の後継という位置づけですね。
基本はモービル運用を想定した仕様
形状としてもそれほど大きくはなく、配布資料の写真からも、基本的にはモービル運用を意識した仕様だと感じました。会場の説明員の方も「セパレートタイプ」であることを繰り返し強調されていたので、そこで私はちょっと意地悪な質問をしてみました。

セパレートなのに、なぜケーブル接続?
「せっかく液晶付きのコントローラーと本体がセパレートになっているのに、どうしてもコントローラーと本体を結ぶケーブル1本は必要になるんですね。コントローラーと本体を Bluetooth で接続すれば、ケーブルは不要になって、車両への設置がずっと楽になると思うのですが……」
具体的には、こんなイメージです。本体は後部の荷台などに設置してアンテナと電源だけを取り回す。コントローラーはダッシュボードに置き、マイクを挿すだけ。コントローラーにはリチウム電池を内蔵し、USB Type-C で充電できるようにする・・・これはもう、車内でスマホを使っているのと同じ感覚です。
コントローラーと本体をケーブルでつなぐということは、結局、本体を運転席のすぐ近くに置くことになります。延長ケーブルもオプションで用意されるとのことでしたが、長いケーブルは車内の美観を損ねますし、取り回しも厄介です。もちろん、スペクトラムスコープの表示帯域や音声の遅延など、無線化には乗り越えるべき課題もあります。それでも、技術的に決して不可能なことではないはずです。
こうお話ししたところ、担当の方は「Bluetooth を使ってケーブルをなくすことはできるはずです。私自身、どうしてケーブル接続の仕様にしたのか分からないんですよ……」とおっしゃっていました。
本体だけの別売はないのか
続けて、「本体だけの別売は考えていないのですか?」とも尋ねてみました。車を使わないときにコントローラーをダッシュボードから外し、自宅から手軽に運用できたら、とても便利ですよね。これも Bluetooth 接続になっていれば、コントローラーを部屋の好きな場所に置いて運用できます。本体とコントローラーを完全に分離できるメリットは、とても大きいと思うのです。
これに対しては「本体だけの別売の予定はありません」とのこと。そして、やはり「Bluetooth のメリットは大きいのに、なぜそうしなかったのか、私にも分かりません……」という答えでした。
プロの仕様とアマチュアの仕様は、違っていい
ここからは、私が勝手に感じたことです。
説明担当の方はご自身もアマチュア無線を趣味にされているようで、実際の運用を通して利便性を追求している姿勢が伝わってきました。ただ、実際に設計している技術者の中には、アマチュア無線を趣味にしている人はとても少ないのではないか……そんな気がしたのです。
プロの業務用無線機であれば、通信の不安定さを極限まで減らすために、Bluetooth ではなくケーブルで確実に接続する、という判断は当然あると思います。でも、我々アマチュアは趣味で無線を楽しんでいます。車への装着のしやすさ、自宅での運用のしやすさ、そして何より金銭的な面からも、「1台で固定もモービルも楽しみたい」。プロの業務用に求められる仕様と、アマチュアが求める仕様は、違っていていいと思うのです。
これはどのメーカーにも言えることでしょう。ハムフェアの来場者の多くが年配であるように、アマチュア無線が好きでプロの技術者になる若い人が少なければ、無線機が業務用の仕様に引っ張られるのは、ある意味で必然です。古くからアマチュア無線を楽しんできた者の心をくすぐるような……業務用には不要でも、あればうれしい……そんなちょっとした利便性は、なかなか汲み取ってもらえないのかもしれません。プロと呼ばれる業種では「アマチュア」という言葉が疎まれ、肩身が狭い。それも致し方ないのかな……と、新製品コーナーの前でつい考えてしまいました。
八重洲の FTX-1 も、同じでした
ちなみに、八重洲の FTX-1 もセパレート設置が可能なので、八重洲のブースでも同じことを聞いてみました。すると担当の方の答えも同じで、「Bluetooth にしない理由が分からないんです」と。しかも FTX-1 では、マイクをコントローラーではなく本体側に接続するため、2本のケーブルを引き回さなければなりません。担当の方も、少し残念そうに話してくださいました。
【コラム】なぜ「ケーブル1本」なのか ~ 技術的に考えられる理由 ~
「Bluetooth にしない理由が分からない」会場でそう伺いましたが、設計側の視点に立つと、無線化を避ける理由はいくつも考えられます。ポイントは、あの1本のケーブルが「電源・双方向の音声・表示データ・制御信号」をまとめて運んでいること。Bluetooth 化とは、その全部を無線に置き換えるという話なのです。
- 表示データの帯域
本体からコントローラーへ、リアルタイムスコープやウォーターフォールの描画データを絶え間なく送る必要があります。Bluetooth Classic の実効速度はせいぜい 1〜2Mbps 程度。ここに音声まで同時に流すと、帯域的にかなり苦しくなります。- 音声の遅延
IC-7110 はマイクがコントローラー側です。送受信の音声を無線で往復させると、コーデック由来の遅延(数十〜100ms超)が避けられません。SSB はまだしも、CW のサイドトーンやブレークインには致命的です。- PTT の確実性
送信キーイングは遅延ゼロ・ドロップなしが大前提。無線リンクでは頭切れや、最悪「送信が切れない」といったリスクが付きまといます。- EMC と認証
2.4GHz モジュールを HF〜UHF の高感度受信機のすぐ近くに置く干渉の問題、50W 又は 100W 送信時の強電界下でリンクを保つ難しさ、さらにコントローラー側の技適取得というコストも増えます。- 電源とコスト
ケーブルなら給電でき、常時オンで即運用できます。無線化すればコントローラーに電池と充電回路が必要になり、手間もコストも増えます。
いずれも「解決不能」ではありません。ただ、これらを同時に満たす必要があるため、モービル志向の実用機としては1本のケーブルが手堅い……というのが実情なのだと思います。だからこそ、その手間をあえてかけてくれる無線機があったら、と願ってしまうのです。
念のため申し添えますが、この記事は決して新製品をダメ出しするものではありません。ひとりのアマチュアが会場で感じたことを、そのまま書き残したものとしてお読みいただければ幸いです。