JH1LHVの雑記帳

和文電信好きなアマチュア無線家の雑記帳

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中古アマチュア無線機市場は本当に崩壊しつつあるのか?

皆さんは、最近の中古無線機市場を見て、どのような変化を感じているでしょうか。

オークションサイトやフリマアプリを眺めていると、以前ならすぐに買い手がついたような無線機が長期間売れ残り、何度も値下げされている場面を見かけるようになりました。

一方で、発売から年月がたっていても高値を維持している機種や、出品されるとすぐに売れてしまう無線機もあります。

この状況を単純に、

「アマチュア無線人口が減っているから、中古無線機も売れなくなった」

と結論づけることはできないようです。

今回ご紹介する YouTube 動画は、中古アマチュア無線機市場で起きている変化を、安価な中国製無線機の登場、FT8 や POTA の普及、無線家の高齢化など、いくつかの視点から考察したものになります。

動画紹介

"Why Is the Used Ham Radio Market Falling Apart? The Truth Is Brutal"

www.youtube.com

この動画は、先日当ブログでもご紹介したチャンネル「Buried History with Jonathan Reed」の最新動画です。

動画では、中古市場の変化について、Baofeng UV-5R の登場、2017年に公開された FT8、移動運用である POTA の普及、高齢化に伴う中古機材の供給増加などを手掛かりに説明しています。

ただし、タイトルにある「市場が崩壊している」という表現は、この日本ではかなり強い言葉ではないかと思います。

実際には、中古無線機が一様に値下がりしているというよりも、需要のある機種と需要を失った機種との差が、以前よりもはっきりしてきたと考えたほうが実態に近いのではないでしょうか。

Baofeng UV-5R が壊した低価格帯の常識

動画が最初に取り上げているのが、中国製ハンディトランシーバー、Baofeng UV-5R の登場です。

かつて VHF・UHF 帯のハンディ機には、中古品であっても、正常に動作する無線機なら最低でもこれくらいの価格になるという、暗黙の価格帯がありました。

ところが2010年代に入り、UV-5R をはじめとする中国製デュアルバンド機が、新品でも数十ドルという価格で大量に販売されるようになります。

新品の無線機が、中古の旧型ハンディ機よりも安く買えるようになれば、古いハンディ機の価格が下がるのは当然です。

特に影響を受けたのは、アナログ FM だけに対応した旧型機、専用バッテリーが入手困難な機種、メモリー数が少なくパソコンからの設定にも対応していない機種、さらに修理や保守部品の供給が終了している機種でしょう。

ただし、この動画で言っている UV-5R がアマチュア無線機の中古市場全体を崩壊させたとするのは、少し言い過ぎなように思います。

その影響が特に大きかったのは、主として入門用の VHF・UHF ハンディ機です。HF 機、オールモード機、高性能受信機、測定器、アンテナ関連機器などは、それぞれ異なる中古市場を形成しています。

また、安価な無線機は価格面では魅力的ですが、受信時の性能、送信波のスプリアス、操作性、防水性、耐久性、メーカーサポートなどについては、国内メーカー製の無線機と単純に比較できない面があります。

安価な新製品が登場したからといって、品質の良い中古機の価値がすべて失われたわけではありません。

FT8 は高級無線機を不要にしたのか

次に動画が取り上げるのが、2017年に登場したデジタル通信モード FT8 です。

FT8 は微弱な信号でも復調しやすく、SSB や CW では交信が難しいような条件でも、遠距離局と交信できる可能性があります。

このため、以前よりも小さなアンテナや低い送信出力で DX を楽しめるようになったことは確かです。

ただし、「FT8 なら簡単な無線機とワイヤーアンテナだけで、いつでも地球の裏側と交信できる」とまで言ってしまうのは、少し誤解を招きます。

FT8 であっても、電波伝搬、周波数帯、季節、時間帯、アンテナの設置条件、周囲のノイズなどの影響を大きく受けます。デジタルモードになったからといって、アンテナや受信環境の重要性がなくなったわけではありません。

また、高性能な無線機には、強い信号が混在する環境でも受信しやすいこと、周波数安定度が高いこと、送信時の歪みや不要輻射を抑えやすいこと、フィルター機能やバンドスコープが充実していることなど、多くの利点があります。

特にコンテストや混雑したバンドでは、受信性能や操作性の違いが運用のしやすさに直結します。

FT8 の普及によって変わったのは、高性能な無線機が不要になったということではありません。

むしろ、遠距離交信を始めるために必要だった最初のハードルが低くなった、と捉えるべきでしょう。

大規模なタワーや高価な設備を最初から用意しなくても、手持ちの 10W 機と比較的小さなアンテナから DX に挑戦できるようになったことが、中古市場の需要にも一定の変化を与えた可能性があります。

POTA が変えた欲しい無線機

近年、米国を中心に大きく成長しているのが、POTA、Parks on the Air です。

POTA は、公園などからアマチュア無線を運用する アクティベーターと呼ばれる局と、ハンターと呼ばれる CQ に応答する局が交信を楽しむという国際的な運用方法です。

POTA のような移動運用では、大型の固定機よりも、小型で軽く、消費電力が少なく、バッテリーで運用できる無線機が好まれます。また、アンテナチューナーを内蔵していることや、パソコンやスマートフォンとの連携が容易であることも、選ばれる理由になります。

そのため、かつての最高級固定機よりも、IC-705、FT-818、KX2、KX3 などの小型機や、近年の軽量な SDR トランシーバーに人気が集まることがあります。

ただし、POTA の広がりだけで大型固定機の需要がなくなったわけではありません。

固定局からコンテスト、DX、ラグチュー、デジタル通信を楽しむ人にとっては、100W 機や 200W 機、大型ディスプレイを備えた無線機の使いやすさは今も変わりません。

ここでも起きているのは市場の消滅というより、運用スタイルの多様化による需要の分散と考えるのが適切でしょう。

なお、日本には POTA が本格的に広がる以前から、山岳運用、公園運用、移動サービス、道の駅、島、郡市区などを対象とした独自の移動運用文化があります。近年は日本国内でも POTA のアクティベーションが盛んになってきましたが、日本における小型機の需要を、すべて POTA によるものと説明することはできません。

それでも、世界的な POTA 人気が、小型 HF 機やポータブルアンテナ、バッテリー製品の開発を後押しし、その製品が日本市場にも入ってきていることは確かでしょう。

高齢化とサイレント・キーによる供給増加

もう一つ、動画が大きな要因として挙げているのが、アマチュア無線家の高齢化です。

長年無線を続けてきた人がサイレント・キーとなり、遺族が残された無線機やアンテナ、測定器、部品類を処分するケースが増えているといわれています。

一人の無線家が所有していた機材は、無線機1台だけとは限りません。

長年かけて集めた複数のトランシーバー、リニアアンプ、電源、アンテナチューナー、SWR 計、測定器、真空管、部品などが、一度に中古市場へ出てくることがあります。

一方で、それらを引き継ぐ若い無線家の数や、広いシャックを構えられる人の数は限られています。

その結果、大型で非常に重い固定機、修理に専門知識を必要とする真空管式機器、交換部品が入手できない機種、現在の運用方法に対応しにくい機種、設置に広い場所を必要とするアンテナや周辺機器などは、供給過多になりやすいと考えられます。

ただし、サイレント・キーによる機材の放出が、中古価格下落の主因であることを示す包括的な市場統計が存在するわけではありません。

この部分は、動画による市場分析の一つ、あるいは中古業者や無線家が現場で感じている傾向として受け取るのがよいでしょう。

古い無線機なら何でも安くなるわけではない

中古市場を見ていると、すべての旧型機が値下がりしているわけではありません。

当時を代表する高性能機、希少性が高く現存台数が少ない機種、修理情報や回路図が豊富な機種、補修部品を比較的入手しやすい機種、デザインや操作感に根強い人気がある機種などは、現在でもそれなりの価値を維持しています。

また、発売から年月がたっていても、現在の運用で十分に使える受信性能を持つ機種や、コレクターの評価が確立している機種は、安定した価格で取引されることがあります。

反対に、発売時に高価だったからといって、中古でも高く売れるとは限りません。

専用ディスプレイ、カスタム IC、液晶パネル、エンコーダーなどが故障すると修理できない機種は、正常動作品であっても将来の維持に不安があります。

中古価格は、発売当時の定価よりも、現在も実用になるか、故障したときに直せるか、自宅に置けるか、持ち運びやすいかといった点によって決まる時代になってきたのかもしれません。

それでもアマチュア無線は衰退しているのか

中古価格が下がっていると聞くと、アマチュア無線そのものが衰退しているように感じてしまいます。

しかし、中古機の価格と、趣味全体の活力は必ずしも一致しません。

米国のデイトン・ハムベンションは、2025年に36,814人の来場者を記録し、前年を上回る過去最高の参加者数となりました。

会場にはメーカーや販売店の展示だけでなく、広大なフリーマーケット、技術フォーラム、QRP 関連イベントなどが用意され、多くの無線家が集まっています。

注目したいのは、来場者の目的が新品の無線機を購入することだけではない点です。

友人との再会、技術情報の交換、古い機材探し、講演の聴講、工作体験なども、ハムフェストの大きな魅力になっています。

中古機の価格が下がったからといって、無線家の交流や技術への関心まで失われたとは限りません。

今月開催されるハムフェア2026

日本では今月、2026年8月29日と30日に、有明 GYM-EX で「ハムフェア2026」が開催されます。今年は JARL 創立100周年にあたり、「好奇心のアンテナをたてよう」をキャッチフレーズに、例年以上に多くの団体が出展を予定しています。

ハムフェアでは、メーカーによる新製品展示だけでなく、クラブや団体のブースで多くの中古無線機、測定器、アンテナ、部品、ジャンク品が販売されます。

インターネット上の中古品とは異なり、実物を直接見て、出品者から機材の来歴や動作状況を聞けるのが大きな魅力です。

中古品の購入では、電源が入ったというだけで完動品と判断しないことが大切です。

送信出力や受信感度が確認されているか、表示欠けやバックライトの劣化がないか、ボリュームやエンコーダーに接触不良がないか、内蔵電池やメモリーバックアップ電池が液漏れしていないかなど、可能な範囲で確認したいところです。

また、改造や修理の履歴、マイクや電源コード、取扱説明書などの付属品、故障時の修理可能性についても、購入前に出品者へ尋ねておいたほうが安心です。

さらに、古い無線機を実際に使用する場合には、技術基準適合証明や保証認定、現在の免許制度上の扱いについても確認が必要です。

特に古い無線機では、会場で正常に見えても、電解コンデンサー、リレー、スイッチ、エンコーダー、液晶、バックアップ電池などが寿命を迎えている可能性があります。

安いから買うのではなく、故障していても直したい機種なのか、直せなくても所有したい機種なのかまで考えてから購入したほうが、後悔は少ないと思います。

反対に、自分で修理や調整を楽しめる人にとっては、中古価格の下落は魅力的な状況です。

以前は手が届かなかった往年の名機を入手し、回路図を読みながら修復することも、アマチュア無線ならではの楽しみ方でしょう。

ハムとして思うこと

動画を見て感じたのは、中古無線機市場そのものが消滅しようとしているのではなく、無線機に求められる価値が変わったということです。

かつては、大型で重く、ツマミやメーターを数多く備えた無線機をシャックに並べることが、一つの理想的なスタイルでした。

現在では、それに加えて、小型の無線機を屋外へ持ち出したり、パソコンやスマートフォンから遠隔操作したり、M5Stack や XIAO ESP32C3 などの小型マイコンボードを無線機に接続して、自分だけのシステムを作ったりする楽しみ方も広がっています。

無線機単体の性能だけでなく、持ち運びやすさ、ソフトウェアとの連携、USB や Bluetooth への対応、ファームウェア更新、消費電力、修理可能性、技術情報の入手しやすさなどが、中古価格を左右するようになりました。

市場が崩壊したというより、アマチュア無線の楽しみ方が変化し、その変化に合わなくなった機材の価格が下がっていると考えると、現在の状況を理解しやすいと思います。

まとめ

この動画は、ここ十数年のアマチュア無線界で起きた変化を、中古市場という視点から振り返るきっかけを与えてくれます。

ただし、動画のタイトルにあるような「中古市場の崩壊」を、そのまま日本市場全体の現状として受け取る必要はないと感じました。

安価な中国製ハンディ機の登場、FT8 による DX 運用の入り口の変化、POTA をはじめとする移動運用の人気、無線家の高齢化、保守部品の枯渇など、複数の要因が重なり、中古機の価値が以前よりも厳しく選別されるようになった、と見るのが妥当だと思います。

今月のハムフェアでも、数多くの中古無線機やジャンク品が並ぶことでしょう。

値札の安さだけに目を奪われず、その無線機で何をしたいのか、今後も維持できるのかまで考えながら会場を歩けば、思いがけない一台に出会えるかもしれません。

中古市場の変化は、古い機材の終わりを意味するだけではありません。

これまで高価で手が届かなかった機材を入手したり、修理やレストアに挑戦したりする人にとっては、新しい楽しみが始まる機会でもあります。

ハムフェアへ行かれる方は、ぜひ実物を手に取り、売り手との会話も楽しみながら、自分にとって価値のある一台を探してみてはいかがでしょうか。