モールスの符号配列、理屈から眺めてみました
これまで何度も、モールスの修得に気の利いた理屈や近道はなく、とにかく音を聞き続けるしかない、と書いてきました。今回も、その結論に変わりはありません。
ただ、今回は少しだけ寄り道をしてみます。
このブログの練習ページやアプリを、なぜこのような構成や順番にしているのか。その背景にある考え方を、肩の力を抜いて書いてみたいと思います。
先日、1943年に英国レスターで発行された第4版『The New Morse Code Manual』という、戦時中のモールス教本を眺める機会がありました。
これは、RAF(英国空軍)や ATC(航空訓練隊)などで使用することを想定し、ブザーと電鍵だけで大勢の訓練生に、短期間でモールスを習得させるために作られた教材です。

面白かったのは、この教本の符号の教え方です。最初に「T・M・O」(長点だけの文字)、次に「E・I・S・H」(短点だけの文字)というふうに、似た符号、紛らわしい符号をあえて固めて練習させる構成になっていました。

一方で、現代のモールス学習で定番とされる「コッホ法」は、これとは逆で、最初は音がなるべく違う文字から始めるのが基本です。似た符号は、ある程度土台ができてから対比させたほうがいい、という考え方です。
このあたりを調べているうちに、「じゃあ自分が公開している練習ページやアプリは、この理屈に照らすとどういう位置づけになるだろう」と気になって、整理してみることにしました。あくまで後付けの理屈であって、これを知らなくても練習はできます。その点だけ、先にお断りしておきます。
使うのは、いつもの3つ
どれも別々に紹介してきたツールですが、それぞれ何を狙って作ったのか・・・こんな整理になるかな、という話です。
ステップ1:欧文トレーナーで、まず全部の文字を音として覚える
このページは、A〜E、F〜J……というように、少しずつ文字を増やしながら、途中に「ここまでの文字を使ったランダム出題」を挟む構成にしています。
最初は、1文字ずつ繰り返し聞く練習が効果的です。文字間隔は「標準」から「標準 × 5」まで選べるので、はじめは間隔を広めに設定し、聞き取れるようになってきたら、少しずつ標準の間隔に近づけていく使い方がおすすめです。
一方、符号そのものの速度(WPM)は、最初から目標に近い速度、できれば少し速めに固定しておきます。そして、文字間隔の広さで難易度を調整するのがコツです。
符号表とにらめっこしながら聞くのではなく、あくまで音だけで判断する練習だと割り切ってください。符号表を見て答え合わせをするのは、1セットが終わってからで十分です。
「A 〜 Z ランダム」「A 〜 0 ランダム」まで進んだら、このページでの練習も仕上げの段階です。ここは特に重点的に、繰り返し取り組んでください。
Windows アプリ「Learning Morse」でも、この練習ページと同じ内容のトレーニングができます。ぜひ、あわせて活用してみてください。
ステップ2:Learning Morse で、自分の弱点だけを狙い撃ちする
実はこの方法は、8年前の記事でもご紹介したものです。今回は、その練習がなぜ有効なのかという理屈も含めて、改めて整理してみます。
似た符号を意図的に続けて聞く練習は、その場では聞き間違いが増え、「これはしんどい」と感じるかもしれません。しかし、長い目で見ると、似た文字同士を聞き分ける力を高める効果が期待できます。
心理学でいう「文脈干渉効果」に近い現象と考えられます。先ほどご紹介した戦時中の教本でも、似た符号をあえてまとめて教えていましたが、その狙いも同じところにあったのではないかと思います。
やり方は、とても単純です。
- 受信練習中に「ん?」と引っかかった文字をメモしておく
- その文字や文字列だけを並べたテキストを、メモ帳などで作る
- そのテキストを Learning Morse に貼り付け、繰り返し聞く
- 速度を上げたり下げたりしながら、「ん?」という感覚がなくなるまで練習する
Learning Morse は、初めて欧文・和文モールスを学ぶ方はもちろん、「苦手な符号だけを繰り返し聞く」といった練習も想定して作ったアプリです。今回のような弱点克服の練習に、使わない手はありません。
ただし、一点だけ注意があります。
この練習は、ステップ1をひと通り終えてから行ってください。すべての文字を覚える前に、似た符号ばかりを練習してしまうと、短点や長点の数を数えて区別する癖がつき、かえって受信速度が伸びにくくなることがあります。
まずは、それぞれの文字を一つの音のまとまりとして覚えること。その土台ができてから、弱点を補うための「補習」として取り入れるのが効果的です。
「The New Morse Code Manual」で採用されている符号の学習順
この教本では、第1課から第10課まで、次の順序でモールス符号を学習するように記述されています。長点だけで構成される文字から始まり、次に短点だけの文字、そして長点と短点が混在する文字へと進む構成です。
- T・M・O
- E・I・S・H
- A・U・V
- N・D・B
- W・J・P
- R・L・F
- K・C・G
- Q・Y・X・Z
- 1・2・3・4・5
- 6・7・8・9・0
この方法には、合調法の「A=アレー」のように、符号の形を短期間で覚えやすく、学習の達成感を得やすいという利点があります。一方で、次のようなデメリットもあります。
- 長点や短点を数える癖がつき、受信速度を上げにくくなる
- 遅い文字速度が身についてしまい、後から音の捉え方を修正する必要が生じる
- 符号表などの視覚情報に頼りやすくなる
そのため、モールス符号を最初に覚える方法としては、あまりお勧めできません。まずは、A から Z、1 から 0 までの符号を、それぞれ一つの音のまとまりとして身につけることが大切です。そのうえで、符号を一通り習得した後の送受信訓練に、この並び順を活用すると効果的だと思います。
ステップ3:コールサイン受信練習で、実戦に慣らす
文字がひと通り聞き取れるようになったら、次はこのページを使って、実際のコールサインを繰り返し聞いていきます。
速度は、「かろうじて聞き分けられる」くらいに設定するのがポイントです。楽に聞き取れる速度で練習を続けても、なかなか大きな伸びは期待できません。少し負荷を感じるくらいの速度で続けることで、少しずつ受信力が鍛えられていきます。
ノイズ設定(S/N比)は、最初は「なし」から始めます。慣れてきたら、1:1、1:1.5、1:2というように、少しずつ条件を厳しくしていきましょう。段階的にノイズを加えることで、実際の運用に近い環境でも聞き取れる耳が育っていきます。
練習時間は、1日5分でも十分です。ただし、できるだけ毎日続けること。これまで何度も書いてきましたが、結局はこれに尽きます。
聞き取りゲームモードでスコアを記録しておけば、自分の上達を数字で確認できます。少しずつ伸びていく記録が、練習を続けるモチベーションにもなるはずです。
Windows アプリ「CW MANIA」でも、マニアックにコールサインの受信練習ができます。ぜひ、あわせて活用してみてください。
まとめると
ここまでの流れを整理すると、次のようになります。
| ステップ | やること | 使用するツール |
|---|---|---|
| 1 | すべての文字を、音のまとまりとして覚える | 欧文トレーナー、Learning Morse |
| 2 | 自分が苦手な符号の組み合わせを、集中的に聞いて克服する | Learning Morse |
| 3 | 実際のコールサインを聞き、実戦的な受信に慣れる | コールサイン受信練習 |
ただし、この順番を厳密に守る必要はありません。
ステップ1がある程度進んだらステップ3へ移り、ステップ2は苦手な符号が見つかるたびに「補習」として並行して続ける。そのくらいの緩やかな進め方で十分だと思います。
1943年の教本も、令和の時代に作られたフリーソフトも、結局は「似た符号を、どう聞き分けられるようにするか」という、同じ課題に向き合っていたのだと思います。それが、今回あらためて気づいた、いちばん興味深い点でした。
とはいえ、ここまで書いてきたことは、ある意味では後付けの理屈にすぎません。
教本や練習ツールが、どのような考え方で作られていたとしても、上達するためにやることは変わりません。
ストイックに、聞いて、聞いて、そして聞き続ける。
結局は、それだけです。



