前回の記事でご紹介した Desktop CW ですが。
あれを作りながらずっと頭の片隅にあったのが「本物の印字機って、実際どんなものだったんだろう」という素朴な疑問でした。そんなことを考えていた矢先、パラパラとめくっていた 1984年(昭和59年)の CQ 誌の広告のなかに、まさにその "本物" —— HI-MOUND の CW 総合練習機 RO-4Z(訓練用印字機) の広告を見つけてしまい、思わず声が出るほど嬉しくなってしまいました。

意外と小さかった "憧れの機械"
広告のスペック欄を眺めていて、まず驚いたのがそのサイズです。高さ 37cm、横幅 20cm ほど——。正直なところ、私の記憶のなかの印字機は、もっとどっしりとした業務機然とした大きさで鎮座しているイメージだったのですが、実際は机の上にちょこんと置ける程度のコンパクトさだったんですね。遠い昔の記憶というのは、当時の憧れの強さのぶんだけ、対象を実物以上に大きく描いてしまうものなのかもしれません。あらためて数字を突きつけられると、なんとも言えない感慨がこみ上げてきます。
「特許および実用新案登録済み」の文字が誇らしげに並び、標準価格 ¥50,000 のところ直販特価 ¥43,800(送料共)——。当時の物価を思えば決して安い買い物ではありませんが、それでも「訓練用印字機が改良されて、楽しく覚えられるモールス電信練習機に生れ変りました」というキャッチコピーには、作り手の自信と愛情がにじんでいるようで、読んでいるだけで胸が熱くなります。
RO-4Z は何をしてくれる機械なのか
広告の説明を追っていくと、RO-4Z の仕組みがよく分かります。要は、打鍵したモールス符号(あるいは受信機から入力した信号)を、内蔵の印字ペンが細いロール紙のテープに長短のマークとして刻んでいくという装置です。テープ長は約 200m、送り速度は毎分約 1m。オシレーターの音程は 400〜800Hz の範囲で調整でき、出力は 0〜2W、内蔵スピーカーやレシーバージャックも備えていて、自分の打鍵をリアルタイムで音として確認しながら、その符号が紙の上に "かたち" として残っていく——。
つまり、耳(音)と目(印字)の両方でモールスを確認できる、当時としては実に理にかなった練習機だったわけです。そしてこれって私の Desktop CW が画面上でやっていることと、まったく同じなんですよね。紙テープをパソコンのディスプレイに置き換えただけ、とも言えます。40年越しに、同じことをパソコンで実装できたことに、先人に肩を叩かれたような、不思議な気持ちになりました。
本当はハードで作りたかった
実を言うと、Desktop CW のようなウェブアプリではなく、マイコンとステッピングモーター、3D プリントなどを駆使して、この RO-4Z のような物理的に紙へ印字するハードを製作することも、長いあいだ模索してきました。頭のなかでは何度も試作機が完成しているのですが……。
ところが、いざ作ろうとすると、肝心の「幅の狭いロール紙」がネット中をどれだけ探しても見つからないのです。レシート用の感熱ロール紙は山ほどあるのに、印字ペンで書き込むための細幅の上質紙ロールとなると、まったく市場に出回っていない。ここで完全に足止めを食らってしまい、HI-MOUND の印字機を模倣するというプロジェクトは、泣く泣く断念していたのでした。専用の消耗品が手に入らない、というのは、この手の "復刻もの" 製作の一番の壁だなと痛感します。
Desktop CW の今後の課題
Desktop CW の現バージョンでは、打鍵したモールス符号の様子をパソコンの画面上でリアルタイムに確認できますが、本物の印字機のように「紙に印刷する」機能までは持たせていません。
リアルに紙へ印字しようとすると、やはり外部インタフェース(ハード)を別途製作する必要が出てきてしまうので、そこはハードルが高い。ただ、リアルタイムで一文字ずつ打刻するのではなく、最後にまとめて一括で印刷するかたちであれば、通常のプリンタでも十分対応できそうです。せっかく画面に残した符号を、記念に紙へ残せるようにしておくのも面白いかもしれません。今後の課題として、少し検討してみようと思っています。
無線通信の発展を、縁の下で支えた会社
それにしても、HI-MOUND さんという会社は、各種電鍵はもちろんのこと、こういった訓練用印字機まで自社で製作・販売していたのですから、あらためて凄い会社だなと思います。
広告の納入先を見て、さらに唸ってしまいました。郵政省(現在の総務省)、電電公社(現在の NTT)、防衛庁(現在の防衛省)、海上保安庁、気象庁、警察庁、そして各学校および職業訓練校の無線通信用、さらには通信機メーカーまで——。国の基幹インフラや教育の現場を、モールスの技能習得という一点で静かに支えていたわけです。派手さはないけれど、日本の無線通信の発展と教育に真摯に尽力してきた、まさに縁の下の力持ち。今さらながら、頭の下がる思いです。
そんな先人たちが磨き上げてきた "印字機" という文化を、令和のいま、ソフトウェアというかたちで自分なりに受け継げているのだとしたら——。Desktop CW を作ってよかったな、と心から思うのでした。
最新の Desktop CW では、テープ画像を見やすいものに変更しています。
