JH1LHVの雑記帳

和文電信好きなアマチュア無線家の雑記帳

スポンサーリンク

電鍵に触るのは、まだ早い? ~送信練習、はじめの一歩~

前回のモールス送信練習のページ「Desktop CW」のリニューアルからの続き、ということで、今回も送信練習にまつわる話を書いてみます。

--------------

モールスを覚え始めて一週間。
符号もだいたい頭に入ってきたし、そろそろ送信練習でも始めようか。

そんなふうに考えている方へ、今日は少しばかりおせっかいな話をひとつ。

実はこの話、私がこのブログを始めた頃からずっと言い続けていることでして、10年以上経った今でも、その考えはまったく変わっていません。むしろ、年々確信が深まっているくらいです。

真新しい電鍵、まだ触ってはいけません

大枚をはたいて手に入れた、ピカピカの電鍵。

箱から出して、台座の重みを確かめて、接点の調整なんかしてみたりして。すぐにでも叩きたい気持ちは痛いほど分かります。私もそうでしたから。

でも、そこはグッと堪えて我慢してください。

電鍵に触る前に、まずやるべきことがあります。 それは、これからご紹介する、なんとも「つまらない」練習です。

「つまらない」と最初に断言してしまうあたりが正直なところなのですが、この練習を飛ばして上達した人を、私は寡聞にして知りません。

第一段階:聞こえてくるモールスに合わせて、声に出して唱える

やることは単純です。

パソコンやスマホのアプリから流れてくる、機械が生成した正確な1:3のモールス音に合わせて、「トツーツー・・・」と実際に声を出して唱えるのです。

お手本として聞こえてくるモールスに、自分の唱える声がピッタリと重なるまで、ひたすら繰り返します。

最初は遅い速度で構いません。15wpm でも、なんなら 10wpm でも結構です。

大切なことはただひとつ。

短点1に対して長点3。この正確な比率のリズムを、頭ではなく身体が覚えるまで、実際に声に出して唱えること。

黙読ではダメです。頭の中で唱えるのでもダメです。 ちゃんと声に出すこと。ここがポイントです。

要するにこれは、仏教の写経や、カラオケで歌を覚えるのと同じ理屈です。お経も歌も、目で追っているだけでは身につきません。声に出して、口と耳と身体で覚えるからこそ、自分のものになるわけです。

幸い、今はこの手の練習教材に困らない時代になりました。私が始めた頃はカセットテープが主流でしたが、今ではパソコンアプリ(拙作の Learning Morse や CW MANIA)やウェブブラウザ(当ブログにも掲載中)で、速度も周波数も自由自在に設定したモールス音がいくらでも生成できます。「教材がない」という言い訳だけは、もう通用しません。

第二段階:今度は文字を目で追いながら唱える

第一段階で、自分の声がお手本のモールスとピッタリ合うようになってきたら、次の段階です。

今度は音源を止めて、送信しようとする文字列だけを目で追いながら、第一段階と同じ要領で「トツーツー」と声に出して唱えます。

つまり、お手本なしで、自分ひとりで正確な1:3のモールスを「歌える」かどうかの確認です。

これも最初は遅い速度で構いません。 納得のいくリズムで唱えられるようになったら、徐々に速度を上げていきます。

ここでひとつ、強くおすすめしたいことがあります。

自分が唱えるモールスを、録音して聞き返してください。

昔なら IC レコーダーを引っ張り出してくる必要がありましたが、今はスマホのボイスメモで十分です。録音のハードルは限りなくゼロに近くなりました。

自分では正確に唱えているつもりでも、録音を聞き返すと愕然とするはずです。長点が短かったり、符号間が詰まっていたり、焦って走っていたり。この「つもり」と「実際」のギャップを埋める作業こそが、矯正というものです。

もし身近に CW の先輩がいるなら、第三者の耳で聞いてもらうのが一番ですが、独学派の方はスマホの録音で自己矯正。これで十分に代用できます。

少々手間はかかりますが、すべては綺麗なモールスを電波に乗せるためです。 手を抜かずに、この基本だけは確実にクリアしてください。

なぜ「唱え練習」が効くのか

電鍵の操作というのは、突き詰めれば「頭の中にあるリズムを、手で再生する」作業です。

つまり、頭の中に正確な1:3のリズムが入っていなければ、どんなに高級な電鍵を使っても、出てくる符号は崩れたものになります。逆に、頭の中のリズムが正確なら、手はそれを再生するだけですから、矯正もずっと簡単になります。

電鍵から先に練習を始めてしまうと、「崩れたリズム」と「未熟な手の動き」という二つの問題を同時に抱えることになります。どちらが原因で符号が崩れているのか、自分では切り分けられません。

だからまず、声で頭の中のリズムを完成させる。 電鍵は、そのあとです。

納豆符号と短点離れ符号は、こうして生まれる

CW 界には昔から、嫌われ符号の代名詞というものがあります。

短点同士がネバネバとくっついて聞き取れない「納豆符号」。 逆に短点がポロポロと離れて、まるで別の符号に聞こえてしまう「短点離れ符号」。

ワッチしていると、今でも時々お見かけします。

私が思うに、ああいう符号を打つ方々は、おそらく頭の中のリズムそのものが崩れているのです。試しにそういう局に「声に出してモールスを唱えてみてください」とお願いしたら、きっと唱える声も納豆になるんじゃないでしょうか。……確かめたことはありませんが(いつか何かの機会に、こっそり実験してみたいものです)。

逆に言えば、モールスを声で美しく唱えられる人は、送信する符号もやっぱり美しい。私は長年そう確信しています。

この「唱え練習」を確実にクリアした人が増えれば、納豆符号も短点離れ符号も絶滅して、モールス界に幸せが訪れる。そんな予感すらしてきます。

……まあ、音楽的に音痴な人にはちょっと難しいのかもしれませんが、そこはご愛敬ということで。

モールスは「通信術」という名の、わざと技能

ここからは少し精神論めいた話になります。

モールスの送受信は、昔から「通信術」と呼ばれてきました。 「術」です。知識ではなく、わざであり、技能です。

そして技能というものは、基礎的な訓練と応用的な訓練の積み重ねでしか身につきません。

実際に電鍵を叩く応用的な訓練は、楽しいものです。 一方で、今日ご紹介したような声出しの基礎訓練を「楽しい」と感じる人は、まずいないでしょう。多くの人が「つまらない」と感じるはずです。

でも、基礎をやらずに上手になる道はありません。 スポーツでも楽器でも書道でも、基礎の反復を飛ばして上達した人がいないのと同じです。

この先に待ち構えている数々の試練を乗り越えるためには、この「つまらない」訓練が絶対に必要で、ましてやこの反復以外に「通信 "術"」を極められる近道があるとは、私には思えません。

これから和文を始める方へ、一言

特に、これから和文に挑戦しようという方には、あらかじめ申し上げておきます。

残念ながら、この先のかなりの時間が、こうした「つまらない」基礎訓練に費やされることになります。

そしてこの「つまらない」訓練が本当につまらなくなって、思うように上達もせず、ついには和文の世界から静かに姿を消してしまう。そんなハムが多いのも、また事実です。これは12年前も今も、まったく変わっていません。

ところが、です。

何十人か、いや何百人にひとりくらいは、いるんですね。 こんな「つまらない」ことに、目を輝かせて挑戦している人が。

そうです。 そんなあなたはもう、立派な和文マニアです。

和文を何十年も愛好しておられる OM さんたちは、きっと皆さんそうなのだと思います。誰に褒められるでもなく、こんな「つまらない練習」を、毎日コツコツと続けてこられたのではないでしょうか。

たぶん。いや、きっとね。

まとめ

最後に、今日の話を整理しておきます。

  1. 電鍵を買っても、すぐには触らない
  2. まず、お手本のモールス音に合わせて声に出して唱える(第一段階)
  3. 次に、文字を見ながら自力で唱える(第二段階)
  4. スマホで録音して、自分の耳で矯正する
  5. 頭の中に正確な1:3のリズムが完成してから、はじめて電鍵に触る

道具は12年前とは比べものにならないほど便利になりました。アプリも音源も録音環境も、すべてポケットの中のスマホひとつで揃います。

それでも、上達のために通るべき道は、何ひとつ変わっていません。

電鍵に触るのは、まだ早い。 まずは声に出して、トンツーと唱えるところから。

それが送信練習の、はじめの一歩です。