アマチュア無線受信機の4大性能指標
先日は中華無線機 UV-K1 の受信感度を 12dB SINAD を基準に測定しましたが、受信機の性能はこれだけで決まるものではありません。受信機の性能は、以下の4つの要素を総合的に理解することで、カタログに記載された数値が実際の運用でどのように効いてくるのかが見えてきます。
- 感度(一般に 12dB SINAD で規定される)
- 選択度
- 強信号耐性(混信に対する強さ)
- 音質・歪特性
本日はマンガによる解説を交えながら、これらの性能について書いてみました。















1. 感度(Sensitivity)— どれだけ弱い信号を拾えるか
1.1 感度とは
感度とは、受信機がどれだけ微弱な電波を意味のある信号として取り出せるかを示す能力です。 感度が高い受信機ほど、遠方の弱い局の信号を聞き取りやすくなります。
感度は dBm や µV、あるいは dBuV(1µV基準の対数表現)で表されます。 たとえば −15dBuV は、約 0.18µV に相当します。
※ たとえば IC-705 の仕様書には「FM(12dB SINAD)144/430MHz帯:−15dBuV以下」と記載されています。これは、アンテナ端子にわずか −15dBuV(約 0.18µV)の信号を入れれば、実用的な音声が得られるという意味です。
図1:感度とノイズフロアの関係
1.2 ノイズフィギュア(NF)との関係
受信機の感度を制限する最大の要因は 内部雑音(ノイズ) です。仮にノイズがゼロであれば、どんなに微弱な信号でも十分に増幅すれば取り出せるはずです。しかし現実には、受信機内部の電子回路が必ず熱雑音をはじめとするノイズを発生させます。
この内部雑音の程度を定量化したものが ノイズフィギュア(NF: Noise Figure) です。NFが低い受信機ほど内部雑音が少なく、結果としてより弱い信号を検出できます。感度は NF と帯域幅(BW)、そして必要とする SN 比(S/N)から、以下の式で求められます。
※ −174 dBm は室温(290K)における 1Hz 帯域あたりの熱雑音電力です。
1.3 プリアンプと AGC
プリアンプは初段で信号を増幅し、後段のノイズの影響を相対的に小さくします。ただし、ゲインを上げすぎると、後で説明する相互変調やブロッキングに弱くなることがあります。
AGC(自動利得制御)は入力信号の強弱に応じて自動で受信機の利得を調整する仕組みです。ただし、 AGC は主に IF 段以降で動作するため、RF 初段そのものの過負荷を根本的に防ぐものではありません。
1.4 HF 帯では外来ノイズが支配的
HF 帯では、大気雑音や人工ノイズが受信機の内部雑音を大幅に上回ります。たとえば 30MHz における典型的な大気雑音環境では、NF = 22dB 程度あれば十分とされます。つまり HF 帯では、受信機の感度(ノイズフロア)をむやみに高くしても、バンド上のノイズのほうが支配的であるため、実用上の改善には限度があります。
感度が本当に重要になるのは、VHF/UHF 以上の周波数帯や、衛星通信のように極めて微弱な信号を扱う場面です。
2. 選択度(Selectivity)— 目的の周波数だけを取り出す力
2.1 選択度とは
選択度とは、受信機がチューニングしている周波数の信号だけを取り出し、近接する他の周波数の信号をどれだけ効果的に排除できるかを表す性能です。たとえば 145.450MHz を受信中に、隣の 145.460MHz からの信号がどの程度抑えられるかが選択度で決まります。
選択度は通常、所望の信号に対して何dB減衰しているかで表されます。例として、Yaesu リピーター DR-2X のスペックでは「12kHz離れた信号が −6dB、28kHz離れた信号が −60dB」のように記載されています。
図2:選択度とフィルタの切れ味
2.2 隣接チャネル選択度
最も重要な選択度のひとつが 隣接チャネル選択度(Adjacent Channel Selectivity) です。理想的なフィルタは受信帯域内の信号を完全に通過させ、帯域外を完全に遮断しますが、現実のフィルタにはロールオフ(帯域端の傾斜)があり、隣接チャネルの信号が多少「漏れ込んで」きます。この漏れを最小限に抑えることが重要で、特に多くのチャネルが同一エリアで使われる FM リピーター運用では不可欠な性能です。
2.3 シェープファクタ(形状係数)
フィルタの選択度の「切れ味」を定量的に示す指標が シェープファクタ(Shape Factor) です。これは、フィルタ通過帯域幅の −6dB 帯域幅と −60dB 帯域幅の比で定義されます。
理想的なフィルタではこの値が1.0(完全な矩形特性)に近づきますが、実際のフィルタではそれより大きくなります。値が小さいほど「急峻な」フィルタであり、実用機ではおおむね 1.2〜2.5程度 がよく見られます。 値が小さいほどフィルタの切れ味が鋭く、隣接信号への耐性が高いと言えます。
2.4 受信方式との関係
スーパーヘテロダイン方式の受信機では、選択度の大部分は IF(中間周波数)段のフィルタが担います。IF 段では周波数が固定されているため、非常に狭帯域で急峻なフィルタ(クリスタルフィルタ、メカニカルフィルタ、セラミックフィルタ、DSP フィルタなど)を適用できるからです。
また、イメージ周波数やスプリアス応答に対する選択度も重要で、RF(高周波)段のフィルタやダブルスーパーヘテロダイン方式の採用によって対策します。
- CW:数百Hz程度
- SSB:2.1〜2.4kHz程度
- FM 音声:12〜15kHz程度
現代の DSP 機では、帯域幅やフィルタ形状を柔軟に変えられるため、状況に応じた最適化がしやすくなっています。
3. 強信号耐性 — 強い信号に負けない力
3.1 ブロッキングとは
ブロッキングとは、受信チャネル外に強力な信号が存在するとき、受信機の RF アンプやミキサが飽和(コンプレッション)を起こし、聞きたい弱い信号の感度が低下してしまう現象です。
具体例を挙げると、弱い局の信号を聞いている最中に、近くの送信局が電波を出し始めた途端、それまで聞こえていた相手局の信号が急に弱くなったり聞こえなくなったりする——これがブロッキングです。フィールドデーのようなマルチ運用やコンテスト局の集まる環境、また近隣に別のハム局がある都市部で深刻になりやすい問題です。
図3:ブロッキングとIMDのイメージ
3.2 ブロッキング・ダイナミックレンジ(BDR)
ブロッキング耐性は ブロッキング・ダイナミックレンジ(BDR) として数値化されます。これは、受信機のノイズフロアと、1dB のゲイン圧縮を引き起こす帯域外入力信号レベルとの差(dB)で表されます。BDR の値が大きいほど、強い妨害信号に対して受信機が耐えられることを意味します。
Sherwood Engineering の Rob Sherwood(NC0B)氏は、BDR を含む多数のパラメータで世界中のトランシーバを測定・ランク付けしており、そのデータは受信機評価の事実上の標準として広く参照されています。
3.3 相互変調歪み(IMD)とダイナミックレンジ
ブロッキングと密接に関連するのが 相互変調歪み(IMD: Intermodulation Distortion) です。受信機に2つの強い信号(周波数 f₁ と f₂)が同時に入力されると、RF アンプやミキサの非線形特性によって、受信帯域内に存在しないはずの偽信号(ゴースト信号)が生成されます。特に問題となるのが 3次相互変調積(2f₁−f₂ および 2f₂−f₁)で、これが受信チャネルに落ち込むと偽信号として聞こえてしまいます。
この耐性を示す指標が 3次ダイナミックレンジ(DR3: Third-Order Dynamic Range) で、ノイズフロアと3次 IMD 積がノイズフロアと等しくなる入力信号レベルとの差で定義されます。ARRL の QST 誌のレビューや Sherwood Engineering のランキングでは、この DR3(特に 2kHz スペーシング)が受信機を比較する際の主要指標の一つとして使われています。
2016年以降、ARRL は IP3(3次インターセプトポイント)の公表を取りやめました。その理由は、最新の SDR 受信機などでは IMD レベルと入力信号レベルの比が理論上の 3:1 に従わないケースが増えたためで、代わりに IMD ダイナミックレンジ、ブロッキングダイナミックレンジ、RMDR(Reciprocal Mixing Dynamic Range)の3つのダイナミックレンジに注目するよう推奨しています。
3.4 RMDR(相互混合ダイナミックレンジ)
もうひとつの重要な指標が RMDR(Reciprocal Mixing Dynamic Range) です。受信機の局部発振器(LO)には必ず位相雑音が含まれており、帯域外の強い信号がこの位相雑音と混合されて、受信チャネル内にノイズとして現れます。これが 相互混合(Reciprocal Mixing) で、RMDR はこの影響への耐性を定量化したものです。ARRL は2012年から RMDR をレビューに採用しています。
3.5 3つのダイナミックレンジの使い分け
実際のオペレーションでは、バンドの混み具合や妨害信号の性質に応じて、どのダイナミックレンジが性能のボトルネックになるかが変わります。
- 弱信号受信(バンドが空いている状況):受信機のノイズフロア(=感度)が支配的
- 混雑したバンド(CW パイルアップなど):3次ダイナミックレンジ(DR3)が最重要
- 近隣の強力局が1波だけ存在する場合:ブロッキングダイナミックレンジ(BDR)が支配的
- LO の位相雑音が問題になる場合:RMDR が制限要因
受信機の総合的な強信号処理能力は、これら3つのダイナミックレンジのうち最も低い値によって制限されます。
4. 音質・忠実度(Audio Fidelity / SINAD)— 歪みなく再現する力
4.1 忠実度とは
受信機の忠実度(Fidelity)とは、受信した信号をどれだけ歪みなく、原音に忠実に復調・再生できるかという性能です。いくら感度が高くても、音声がザラザラに歪んでいては快適な交信は成り立ちません。
4.2 SINAD とは
SINAD は、信号(S)に対して、ノイズ(N)と歪み(D)がどれだけ少ないかを表す総合指標です。 受信機の感度と音質を同時に評価できるため、特に FM 受信機でよく使われます。
4.3 12dB SINAD の意味
受信機の感度スペックとして最も一般的に使われるのが 12dB SINAD です。これは「SINAD = 12dB となるために必要な最小入力信号レベル」として定義されます。12dB の SINAD は、出力に含まれる雑音+歪みの割合が約25% に相当し、音声通信としてぎりぎり了解可能な品質の境界とされています。
測定手順は以下の通りです。
- SG から 1kHz のトーンで FM 変調(偏移 3kHz)した信号を受信機のアンテナ端子に入力する
- 受信機のオーディオ出力で、信号+雑音+歪みの全電力を測定する
- 1kHz のノッチフィルタを通して基本波を除去し、残った雑音+歪みの電力を測定する
- 両者の比(dB)が SINAD であり、これが 12dB になる RF 入力レベルが「12dB SINAD 感度」
放送品質の受信機ではモノラル 23dB、ステレオ 26dB 以上の SINAD が求められ、理想的な条件では 40dB を超えることもあります。
図4:SINAD 測定の考え方
4.4 SNR・THD との違い
SINADと混同しやすい指標にSNR(信号対雑音比)とTHD(全高調波歪み)があります。
| 指標 | 評価するもの | 特徴 |
|---|---|---|
| SNR | 信号とノイズの比 | 歪みは含めない |
| THD | 高調波歪み | ノイズは含めない |
| SINAD | 信号と雑音+歪みの比 | 受信機の実用性能を総合的に見やすい |
SINAD はノイズと歪みを同時に捉えるため、受信機のオーディオ出力品質を包括的に評価できる利点があります。特に FM 受信機では、歪みの影響が SNR だけでは見えにくいため、SINAD が標準的な評価方法として広く採用されています。
4.5 実運用での改善ポイント
音質は受信機の回路設計だけでなく、運用面でも改善できます。
- IF フィルタ帯域幅の適切な設定:SSB では 2.4kHz、CW では 500Hz 以下など、モードに応じた最適な帯域幅を選ぶことで、不要なノイズと歪みを低減できます
- AGC の設定:AGC の応答速度(Fast/Slow)をモードに合わせて調整し、音声の明瞭度を確保します
- オーディオイコライザや DSP ノイズリダクション:最新の無線機は DSP 処理によって音声帯域内のノイズを低減する機能を備えています
- 適切な音量設定:パイルアップ時には音量を下げることで、特定の信号に集中しやすくなります
5. 4つの指標の相互関係
これら4つの性能指標は独立しているわけではなく、互いにトレードオフの関係にあります。
感度 vs 強信号耐性
プリアンプを入れると弱い信号は聞きやすくなりますが、その分だけ大信号で飽和しやすくなることがあります。 逆にアッテネータを入れると、強信号下では楽になりますが、弱信号は不利になります。
選択度 vs 音質
フィルタを狭くすれば隣接信号は落としやすくなりますが、音声帯域も削られるため、自然さや聞きやすさが犠牲になります。
6. 実運用での見方 — どの性能が効くのか
まとめ
受信機性能は、感度だけでは語れません。選択度、強信号耐性、SINAD を合わせて見てこそ、 実際に「使いやすい受信機」かどうかが分かります。
自分が主にどんな運用をするのかを考え、その運用にとって重要な指標を優先して見ることが、 受信機選びで失敗しない近道です。