受信機の感度を評価するうえで欠かせない指標のひとつに、SINAD があります。これまで私は、この SINAD を測定するためにマイコンを使った装置や専用基板など、いくつかの方法を試しながら試作を重ねてきました。装置ごとに特徴があり、測定精度や使い勝手を比較しつつ検討を続けてきた経緯があります。
こうした試行錯誤を続ける中で、「もっと手軽に測定できないか」と感じる場面が増えてきました。複数の測定器を用意してケーブルを接続し、環境を整える作業はどうしても手間がかかります。ちょっとした確認をしたいときでも、準備に時間がかかってしまう点が課題でした。
そこで今回、スマートフォンを活用した SINAD 測定の仕組みを開発することにしました。具体的には、受信機の音声信号をスマートフォンで扱えるレベルに変換するための治具と、測定を行う専用アプリをあわせて製作しています。これにより、従来のような専用測定器を用意しなくても、スマートフォンだけで手軽に受信機の感度を確認できる環境を目指しました。
スマートフォンを使う最大の利点は、その手軽さと普及率の高さにあります。ほとんどの方が日常的に持ち歩いており、しかもその中身は高性能なコンピュータです。音声の取り込みや信号処理といった用途にも十分な性能があり、工夫次第で測定器としても活用できます。専用機器を新たに準備する必要がない点は大きな魅力です。思い立ったときにアプリを起動するだけで測定が始められるというのは、これまでの測定スタイルを大きく変える可能性があります。
今回の開発は、私が普段使用している iPhone をベースに進めています。まずは安定して動作することを優先し、基本機能の作り込みを行っています。今後は評価と改良を重ねながら、Android 端末でも同様に測定できるよう対応を進めていく予定です。
これまでに掲載してきた SINAD に関する記事は、以下のリンクからご覧ください。

SSG の出力は、TinySA の RF 信号発生器(RF Generator)を使用します。
tinySA を SSG として使用する方法については、以下の記事をご覧ください。
無線機のスピーカー出力を、そのまま iPhone のマイク入力へ直接接続するのは適切ではありません。信号レベルが高すぎることに加え、機器を傷めるおそれもあります。
そのため、絶縁トランスで回路を分離し、可変アッテネータで信号レベルを調整し、さらにフィルムコンデンサで DC カットを行ったうえで、4極ジャック(TRRS)から USB-C to 3.5mm 変換アダプタを介して iPhone に入力する構成が安全です。こうした処理を行うことで、機器を保護しながら安定した測定が可能になります。



製作したレベル変換(治具)です。
本アプリは、受信感度の評価で広く使われている「12dB SINAD 測定」を行うために、必要最低限の機能に絞り開発しています。操作をできるだけシンプルにし、測定に必要な基本機能だけを実装することで、初めての方でも扱いやすい構成にしています。


- 無線機の音量は低めに設定します。(SQ は OFF)
- GAIN は「0dB」に設定します(起動時のデフォルト値です)。
- VR は最小側(MIN)から調整を開始します。
- INPUT LEVEL を確認しながら、適正レベルになるまで VR を少しずつ上げていきます。
- 入力レベルが一定値を超えると、1kHz の LED が点灯します。これは信号が正しく検出されている目安です。
- VR を最大(MAX)まで上げてもレベルが不足する場合のみ、GAIN を調整します。
- SINAD 測定中は無線機の音量を固定し、途中で変更しないようにします。測定結果のばらつきを防ぐためです。
- INPUT LEVEL が適正な状態で、SINAD 値が「12dB」を示したときの SSG 出力レベルが受信感度となります。
すなわち、INPUT LEVEL の数字を見ながら VR とゲインで -18 dBFS 付近に合わせます。
適切な入力レベルについて
理想的な範囲: -20 〜 -6 dBFS
- -40 dBFS を下回る場合、暗い表示(レベル不足)
信号レベルが ADC のノイズフロアに近づきます。その影響で、測定対象とは別に ADC 由来のノイズが加わります。結果として SINAD は実際よりも悪い値になります。 - -20 〜 -6 dBFS の範囲、緑表示(適正範囲)
ADC のダイナミックレンジを十分に活用できるレベルです。クリッピングまでの余裕も確保できるため、安定した測定が行えます。 - -6 dBFS を超える場合、赤表示(クリップ状態)
iPhone の ADC がクリッピングに近づきます。ADC 自身が歪みを発生させる状態です。この歪みが加わると、無線機本来の歪みと区別できなくなります。その結果、SINAD は本来よりも悪い値として測定されます。
このアプリでは、「1kHz 信号が正しく入力されているか」を確認するために、正常に測定できている状態で LED が点灯するようにしています。ノッチフィルタの出力(1kHz 成分を除去した信号)は、SINAD の計算に使用する内部処理用の信号です。LED の点灯状態とは関係していません。
今日はここまでとします。
受信機の感度測定の実際の様子は次回とします。