JH1LHVの雑記帳

和文電信好きなアマチュア無線家の雑記帳

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【情報 TNX】AI によるノイズ除去について

私の友人である JH7VHA 柴田さんから、前回予告のテーマ「AI によるノイズ除去」について寄稿をいただきました。

短波帯 SSB の受信では、1.8MHz 帯の自然雑音や 3.5MHz 帯の OTH レーダー、空電、送電線ノイズといった “雑音四天王” に悩まされます。本稿では、IC-7851(IC-7300 でも可)と PC を組み合わせ、OBS Studio 上で Waves 社の Clarity Vx を用いてノイズを低減する実験を、構成図・画面写真・波形比較とともに丁寧に紹介しています。

また、効果の実感(音の聞こえ方、推奨設定、0.1秒程度の遅延)から、限界条件(ごく弱い信号やゲリラ的ノイズ環境では難しい場面があること)まで、長所・短所をバランスよくまとめてくださっています。AI 処理を “道具のひとつ” としてどう取り入れるか、実運用のヒントが詰まった内容です。

それでは、以下に 柴田さんの寄稿をご紹介します。

AI の力で短波帯 SSB の雑音を除去する実験をしたのでレポートします。

1 イントロダクション
 中短波帯は、自然雑音・人工雑音(インバーター、ソーラーパワコン、望まない電波等)が大きく
目的の信号を聞くために、とても苦労することが多いですネ。特に 1.8MHz 帯の自然雑音、3.5MHz 帯の OTH レーダー雑音、全バンドでの空電雑音、送電線雑音を雑音四天王と呼んでいます。大先輩たちが、アンテナ・フィルター・ノイズエリミネーター・自分の耳等を駆使してチャレンジしてきた歴史があります。
 私も、アンテナは雑音を受けにくい水平系・2重シールド同軸ケーブル・バンドパスフィルター・イコライザーや自分の頭(自然知能)で戦ってきましたが、これまで雑音には勝てませんでした。

 そんな時、いつも交信している JM1、JH8 各局のアドバイスで AI ノイズキャンセラー  Clarity Vx(クラリティ Vx)を PC にインストールした結果、雑音に勝つことができました。

 詳しいことは AI に聞くことにして、実験内容を紹介します。

2 実験期間        
    令和7年8月 ~ 10月
 

3 実験環境


 写真1 構成写真
 
 
 IC-7851 から PC に USB ケーブルを接続します(IC-7300 でも OK だそうです)
 PC にソフトをインストールします。
 写真1左の BOSE 101 🔊 から 7851 の原音が、右の 🔊 から AI でノイズ除去された音が出ます。

 PC に必要なもの

 写真2 インストール後の画面
 



 Clarity Vx は OBS Sutadio 上で Studio Vase Audio Effect と一緒に動作するもので、ざっくり説明すると、無料ソフトの ① OBS スタジオを使用して、SSB 音を聞いていましたが、雑音が多くなんかいいプラグインがないか?検索して ④ クラリティ Vx を買ったところ、クラリティ Vx を使用するために ② ウェブ セントラルと ③ スタジオベース オーディオ エフェクトが必要だったという感じです。

 4つとも You Tube で検索すると、丁寧に説明されています。


4 実験結果
 クラリティVx を使用している各局と3ヶ月にわたる実験から得られた結果です。
 なお、実験時は無線機のノイズブランカー、ノイズリダクション等は基本 OFF で行いました。

 写真3 1.8MHz 帯自然ノイズと信号状況
 

 ① ノイズ除去状況 
 写真3において
 1.8MHz 帯平均ノイズレベル(下側のスコープ 1.863 MHz)は S メーター 8 程度
 ターゲット信号レベル(上側のスコープ 1.860 MHz)は S メーター 9 程度
 この SSB 信号の了解度は 3 ~ 4(RS=39 ~ 49)
 この状態で、クラリティ Vx を ON にすると
 この信号の了解度は 5(RS=59)
 雑音(人間の声以外)が見事に低減します。(消滅とも言える)
 レーダー、空電、送電線雑音もほぼ消滅します。
 AI が雑音四天王に勝ちました。

 ② 使用感等 
 ・SSB がスマホの音声みたいです。
 ・いつもの JI5 の局にシグナルレポート 49 を送ることがなくなりました。(毎日 59 を送っています)
 ・学習させなくても、最初から効果があります。
 ・メインコントロールノブ(効果調整)は 60% で十分で、100% にすると、声が鼻づまりっぽくなります。
 ・実験各局の好みで効果調整レベルは異なり、40 ~ 80% 程度でした。
 ・Cakewalk等、他の DAW(Digital Audio Workstation)でも使用可能です。(JM1 局はケークウォークを使用)
 ・SSB 音声はモノラルなので、(ANALYSIS は SINGLE で十分) 標準スペックの PC で十分です。
 ・PC への入力は、アナログ(マイクレベル・LINE レベル)でも可能です。
 ・ノイズ除去された音声は原音から約 0.1 秒の遅延があります。(なれるといい感じです)
 ・使い方になれてくると下の写真4、5のように、今「KWM-2」のノイズ除去をしていることを表示したり、交信相手の QRZ.com 上に表示できたりします。

 写真4 OBS スタジオに KWM-2 の画像を表示
 

 写真5 クラリティ Vx を QRZ.com 上に表示
 

 クラリティ Vx  夢のような商品です。
 しかも 6,380円 社長ー 安ーい。

 通販番組ではないので、ネガティブなことも申し上げます。

 写真6 降雨時の送電線ノイズ波形
 

 写真7 OTH レーダーノイズ波形
 

 写真6,7 のようなゲリラノイズの時は、これを超える信号でないとノイズ除去はムリです。

 写真8 クラリティ Vx ノイズ除去状態
 

 写真8のとおり、AI もパニックってます。
 了解度1~2の信号のノイズ除去は出来ません。
 了解度3~4の信号の場合のみ効果があります。

Get it clarity Vx!
 以下、Clality Vxのユーザーガイドから、気になるフレーズを紹介します。
 「Clality Vxはボーカルノイズを全く新しい方法で除去することができます」
 「何百万時間もの例を用いて声とノイズの違いを学習していてノイズを除去します」
 「ノイズを除去した声に生命力を取り戻します」
 ということだそうです。

5 考察
 クラリティ Vx はボーカルノイズキャンセラーというジャンルの製品で、歌っている歌詞の内容は分かるけど、雑音が気になる場合に、それを取り除くことを目標に開発された製品だと思われます。

 AI に聞いてみたところ、
 ・バックグラウンドノイズの除去: 風の音、交通音、BGM、マイクのノイズ、エアコンの音など、あらゆる不要なノイズを軽減できます。
 ・音質補正: 録音環境による音質の劣化を改善し、より自然でクリアな音質に近づけます。
 ・呼吸音、口腔音、エコー、リバーブ(残響)などの具体的なノイズタイプにも対応するツールもあります。
 ・ノイズ除去の精度: 複雑な背景ノイズや音源の品質によっては、完全にノイズを除去できないことがあります。
 ということでした。

 短波帯 SSB の場合、話している内容が分かる程度の雑音の場合は、ボーカルノイズと同じく取り除くことが可能ですが、
話している内容が分かりにくい雑音の場合は、取り除くことが出来ないのだと考えます。

 雑音により内容が分かりにくい時は、了解度が1~2であり、内容が分かる時は了解度が3~4です。
 今回の実験結果からも了解度1~2の信号のノイズは除去できないことが、確認されています。
 
 AIでも、聞こえない SSB 信号の復調は不可能と考察します。


6 所感
 DAW 用プラグインはネット検索すると、たくさんの製品がヒットします。
 ミュージックからボーカルを抜いてカラオケをつくるものや、ボーカルだけを抽出できるものもあれば
原音を解析して最適なイコライジングを行うものもあります。その中で、どれが無線通信に向いているかは、使ってみなければ分かりません。無料で短期間試すことができるものもあります。クラリティ Vx も無料で試せるようです。
 今回はクラリティ Vx を使用している JM1 局から動画サンプルをいただき、そのすごさに魅せられて即買いしました。

 先日、カラオケに行って、AI にいろいろ検索してもらいましたが、定番の歌唱回数の多い曲しか出てきませんでした。まだまだという感じでした。
 しかし、近い将来、AI により「コリンズ」「トリオ」「YAESU」風の音を再現することも可能になるかもしれません。

 また、電信の世界では、雑音・混信・癖のある符号の解読も可能になるかもしれませんネ。



 以上 AI による新しい技術について述べてきましたが、無線通信において不可欠な技術は、符号・音声を聞き取る人間の技術です。また、アンテナや無線機器を調整する人間の技術です。
 AI は人間のアシスタントです。技術力の維持には日々のトレーニングが欠かせません。

 次回は、1.8MHz 用短縮ダイポールの改造についてレポートします。

 最後にClarity Vxを紹介してくれた各局に感謝申し上げます。

 それでは今宵も素敵な和文ライフをお過ごしください。


■ ■ ■

柴田さん、実運用に根差した詳細なレポートをありがとうございました。

アナログの工夫(アンテナ、BPF、運用技術)に AI 処理を重ねることで、SSB の可読性がどこまで向上し得るか・・・その実例と注意点が明快でした。効果ノブの入れ過ぎによる声質変化や、約0.1秒の遅延、了解度が低い極弱信号では厳しいことなど、現実的な"落としどころ"が共有されたのも大きな収穫だと思います。

今回のレポートを拝見して、Clarity Vx の特性についても考えさせられました。本来このソフトウェアは一般的な音声からバックグラウンドノイズを除去することが主目的ですが、無線機から出力される音声はノイズ混じりでフェージングがあり、しかも 3kHz 帯域でフィルタリングされた信号から音声とノイズを分離するには、やはり限界があるのかもしれません。

アマチュア無線に特化した AI 音声処理を考えると、実際の無線機から聞こえるノイズ付き音声とクリアな音声のペアを大量に収集し、TensorFlow などのオープンソース機械学習プラットフォームを使って教師あり学習を行い、専用の AI モデルを構築する方が効果的かもしれません。今回の柴田さんの寄稿文を読んで、無線機のスピーカ出力に接続できる AI マイコン(Raspberry Pi クラス)+ USB オーディオの構成)の「ノイズキラーアダプタ」の製作に挑戦してみるのも面白いと感じました。(NPU 搭載の AI ノートパソコンもいいかも・・・)

本記事をきっかけに、みなさんのシャックでも設定例や比較結果が蓄積されれば、AI 活用の最適解がさらに見えてくるはずです。次回、柴田さんからは「1.8MHz 用短縮ダイポールの改造」についてのレポートを予定しています。

柴田さん、今回も貴重なご報告をありがとうございました。