5年前の 2020年7月9日 、「欧文モールスのローマ字交信(こりゃダメだ!)」というタイトルの記事を公開しました。欧文ローマ字によるモールス音源を試作し、その難しさを実感した内容です。
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最近になって、ある CW を始めたばかりの知人からこんなことを聞かれました。
「和文モールスを覚えるのは大変だから、慣れている欧文のローマ字なら CW 交信できるんじゃないですか?」
確かに、和文をゼロから覚えるより、ローマ字であれば多少なじみもあり、抵抗が少ないという考え方もあるかもしれません。そこで私は、あらためて当時のネタを掘り起こし、再度、日本の昔話「金太郎」のローマ字モールス音源を聞いてみることにしました。
「金太郎」を素材にしたローマ字モールス
この素材は、「和文電信で聞く「金太郎」(2017-08-26)」で作成したものを、ヘボン式ローマ字に変換して再構成した音源です。たとえば以下のような文をローマ字に直し、それを 15wpm・700Hz で音源化しています。
むかしむかし、あしがら山の山奥に、金太郎という名前の男の子がいました……
→ mukashimukashi, ashigarayama no yamaoku ni, kintarou to iu namae no otokonoko ga imashita...
変換にはヘボン式を採用し、撥音や拗音、濁音などにも対応しています。
例えば「しょ」は "sho"、「ちゃ」は "cha"、「ぎゅ」は "gyu" といったように記述しました。
改めて聞いてわかった「難しさ」
数年ぶりにこの音源をじっくり聞いてみて、やはり感じたのは聞き取りの難しさです。
欧文モールスでは通常、1文字=1符号で構成されており、単語としても比較的短く、構造が単純です。しかしローマ字になると、「きゃ」「しゅ」「ちょ」など、1つの音に対して複数のアルファベットを要するケースが非常に多くなります。1音=1文字というわかりやすさがなくなり、暗記受信でまとまりが捉えづらくなるのです。
さらに、ローマ字は日本語の音を表すための表記体系であり、英語としての意味はありません。つまり、意味のある文脈を聞き取るのではなく、符号の連続を追い続ける作業になってしまうのです。これは思った以上に疲れますし、会話として成立させるには高い集中力を要します。
会話ツールとしての「限界」
ローマ字 CW は、符号としては正しくても、「日本語として意味を構成する」のに時間がかかります。たとえば「shoukougun」(症候群)や「gyuudon」(牛丼)など、ひとつの単語が 6 〜 8 文字になると、それだけで数秒を要し、リアルタイムなやりとりは極めて困難になります。
さらに、ローマ字 → 頭の中で日本語再変換というプロセスが挟まるため、自然な会話のテンポを著しく阻害します。聞き取れたとしても、意味を理解し、反応するまでにタイムラグが発生するのです。
こうした点からも、やはりローマ字による CW 交信は、実用的な通信手段としては難しいという結論に至りました。
学習素材としての使い道はあるか?
今回の再検証で「交信には向かない」と感じたローマ字 CW ですが、学習素材としての価値はゼロではありません。アルファベットの綴りや聞き取りの反復練習として使えば、欧文の受信練習の助けにはなるかもしれません。ただし、それもある程度 CW に慣れた中級者以上に限られると思います。
初心者にとっては、「ローマ字なら簡単そう」という入り口が、かえって CW そのものの難しさを強調してしまう結果になるおそれもあります。
やはり自然に響くのは、和文CWでの会話
やはり、日本語を日本語としてそのまま交信できる「和文CW」は、あらためて実用的で親しみやすいと感じました。言葉の意味がダイレクトに伝わることは、大きな魅力であり、大きな利点ですね。
「ローマ字でモールスできるのでは?」という発想は一見新鮮に思えますが、実際には多くの壁があることが今回の再検証で明らかになりました。もし同じようにお考えの方がいれば、この記事が参考になれば幸いです。