JH1LHVの雑記帳

和文電信好きなアマチュア無線家の雑記帳

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QSL World というサービスを通して思うこと

QSL World というサービス

最近、「QSL World」という差出人名で、QSL カードの画像が添付されたメールを受け取った方も多いのではないでしょうか。私の元にも、見覚えのない送信者から QSL カード付きのメールが届くようになり、不審に思って調べてみました。



あちこちネットで検索してみたところ、この「QSL World」は、紙の QSL カードを電子化して提供する新しいウェブサービスであることがわかりました。2023 年から 2024 年にかけて本格運用が始まった、比較的新しいオンラインプラットフォームです。

今回は、私自身が実際にこのサービスを利用してみた体験をもとに、「QSL World」の仕組みや利便性、気になった点などを詳しくご紹介したいと思います。

サービスの仕組みと実際の使い方

QSL World の利用は、ドネーション(寄付)を行わないと、自分から交信相手に QSL カードをメールで送ることや、受信した QSL カードをアルバムで表示することができません。

交信相手からの QSL カードの受信については、QRZ.com のコールサイン情報取得 API を使って所在地やメールアドレスなどを取得しているため、QRZ.com への登録が必須となります。つまり、QSL World の非会員であっても、QRZ.com に登録していれば、相手からの QSL カードがメールで届く仕組みになっています。

私自身は当初 QSL World のことを全く知らなかったのですが、ある日突然、私のメールアドレス宛に頻繁に QSL 情報が届くようになり、その存在を知ることとなりました。

実際に使用した感想

このような経緯から、実際に QSL World のウェブサイトにアクセスして、ビールレベルのドネーションを行って数時間ほど使ってみました。サービスがまだ開設して間もないこともあり、いくつかの使いづらい点や、潜在的な問題となりうる事柄が散見されました。
(現時点の仕様のままでは、QSL World の利用を積極的に勧めることは難しい、というのが私の率直な感想です。)


現時点での QSL World の使用方法は、基本的に次のような流れになります。

  1. 交信ログである ADIF 形式のファイルをアップロードする
  2. アップロードされた ADIF 形式のファイルに記録されている局が QRZ.com から登録情報を取得し、画面の地図上に表示される
  3. 地図上にプロットされた相手局を選択し、そのプロパティからメールを送信する
  4. 受信した QSL 情報はアルバムとして登録される

当初、私は ADIF 形式のファイルをアップロードするだけで自動的にサーバに登録され、QSL World の会員同士なら QSL カードが閲覧できるのかと思っていましたが、実際はそうではないことが後ほど分かりました。なお、サービス開始当初はドネーションの種類によってメールの一括送信が可能だったようですが、現在はこの機能は廃止されているようです。

交信ログから約20件のデータを ADIF 形式でアップロードし、交信相手を地図上に表示してみました。その後、表示された局の中から1局を選んで、プロパティ情報を確認しました。


QSL カードアルバム

プライバシーに関する懸念

個人的に最も気になる点は、QRZ.com にメールアドレスを掲載しているというだけで、相手の了解を得ることなく勝手にメールで QSL カードを送りつける点です。これは一般的なネットのマナーとしていかがなものかと感じます。相手の明確な同意が得られていない状態でのメール送信は、後々スパム行為として問題になる可能性があり、避けるべきではないかと強く思いました。

QSL カードデザインの自由度について

QSL World には、QSL カードのデザインを作成する機能も実装されています。デフォルト状態では文字のみのシンプルなデザインですが、テンプレートとしていくつかの写真が登録されており、それらを使用することもできます。また、自分で画像をアップロードすることも可能です。試しに私は富士山が写っているフリー画像をアップロードして使用してみました。

ただし、交信記録などのデータのフォーマットは変更することができず、フォントを含めて自由に QSL カードをデザインすることはできませんでした。この点は改善の余地があると感じます。

今後の改善に期待すること

数時間使ってみて感じた、QSL World に期待する改善点は以下の通りです。

  1. ADIF 形式のファイルを一度アップロードすれば、そのデータはサーバに保存され、QSL World と QRZ.com 両者の会員であれば、サイト内のアルバムに QSL カードが一覧で閲覧できるようにする
  2. メールでの QSL カード送付は、これまで通り任意で可能とする
  3. QSL カードのデザインは、もっと自由なフォーマットで作成できるようにする
  4. 紙カードと同様に、裏と表が登録できるようにする
  5. QSL World の特長である相手局の地図表示については、アルバム内の QSL 情報をクリックすることで表示できるようにする

QSL World は現在も開発の途上にありますが、将来的にさらに機能が充実すれば、紙の QSL カードから完全にデジタルへ移行する日も現実味を帯びてくるのではないかと期待しています。

国内の hQSL との比較

国内では、Turbo HAMLOG(通称ハムログ)のユーザーが利用できる「hQSL」というシステムが存在しています。私自身は Logger32 ユーザーでありハムログを使用した経験はありませんが、国内のラグチューを主に行うハム局にとっては、この hQSL が最適な選択肢ではないかと考えています。

QSL World と hQSL の評判と問題点の比較

QSL World.com は、海外のアマチュア無線家向けに QSL カードの電子送付をサポートするサービスですが、QRZ.com の掲示板では非常に評判が悪い状況にあることが分かりました。

  • スパム問題
    QSL World は、QRZ.com の公開メールアドレスを利用して無差別に大量の QSL メールを送信しており、1日に5~20通もの不要なメールを受け取るユーザーが続出していたようです。これは「スパム」とみなされ、多くのユーザーが迷惑メールフィルターで削除するなど、強い不満が表明されています。
  • オプトアウトの困難さ
    サービスからの配信停止(オプトアウト)は一応可能ですが、複数のコールサインを管理している場合は現実的ではなく、根本的な解決になっていません。
  • データ利用の問題
    QRZ.com のデータベースからメールアドレスを自動的に取得しているため、ユーザーの許可なく連絡先が利用されていることも批判の的になっています。
  • 運営側も問題を認識
    QSL World 運営者自身も「複数 QSL が一度に送られる」「スパムと感じられる」といった問題を認識しているようで、機能の一時停止や改善に取り組んでいる旨を発信しています。

日本の hQSL の運用と評判

一方、hQSL は日本国内限定の電子 QSL 交換システムで、悪い評判やトラブルはほとんど報告されていません。

  • 利用者の限定性と同意
    hQSL は HAMLOG ユーザーかつ JARL 会員でなければ利用できません。登録時にメールアドレスの提供や利用規約への同意が必要であり、無作為なメール送信は発生しません。
  • ユーザーリストの管理
    送信先は hQSL のユーザーリストに登録された局のみです。リスト外の局には送信できないため、無関係な相手へのスパムは構造的に発生しません。
  • トラブルは設定や運用面のみ
    問題として報告されているのは、メール設定や通信環境のトラブル、ソフトの使い方に関するものが中心で、迷惑行為やプライバシー侵害の苦情は見当たりません。

QSL World.com と hQSL の比較

項目 QSL World.com hQSL
対象範囲 世界中、誰でも 日本国内、HAMLOGユーザー&JARL会員限定
送信先の制限 QRZ.com公開アドレス全般 hQSL登録ユーザーのみ
スパム問題 多発(無差別送信) なし(登録・同意制)
オプトアウト 実質的に困難 そもそも不要(同意局のみ送信)
評判 非常に悪い 悪い評判はほぼなし
主な問題 スパム、プライバシー侵害 設定・運用トラブル(個別対応可)
 

最後に

QSL World.com が評判を落としている最大の要因は、ユーザーの同意なく大量のメールを送信するスパム的な運用と、メールアドレスの無断利用にあります。一方、hQSL は利用者を厳格に限定し、同意を前提とした運用を徹底しているため、迷惑行為が発生せず、悪評も立ちません。この「同意と限定性」の違いが、両者の評価を分ける大きな要因となっています。

デジタル化が進むアマチュア無線の世界において、電子 QSL カードの交換システムは今後さらに重要性を増していくでしょう。しかし、その普及にあたっては、プライバシーや同意の問題に十分配慮した設計と運用が不可欠です。QSL World が今後これらの問題を適切に解決し、より使いやすく信頼性の高いサービスへと発展することを期待しています。

★ 紙の QSL カードと、これからの QSL サービスのあり方★

JARL から届く紙の QSL カードですが、正直なところ「届いた日にチェックして、そのまま箱に保管」という方が多いのではないでしょうか。本来であれば、2回目や3回目の交信の際に、そのカードを見ながら話題を広げるのが理想です。そうした会話のきっかけとしては、文字だけのカードよりも、写真入りのカードの方が盛り上がります。まさに「QSO のネタになるカード」が理想です。

とはいえ、実際の交信中に「何千・何万枚もある QSL カードの中から、相手のカードを探し出す」というのは現実的ではありません。

そんな中、最近では、紙の QSL カードの表裏をスキャンして保存し、コールサイン検索で瞬時に画面表示できるようにしている “猛者” もいるようです。ただし、これは相当な手間と時間がかかるため、誰にでもできることではありません。

しかし、もし「QSL World」のようなサービスが進化し、カードのデジタル化と検索表示が簡単にできるようになれば、紙の QSL カードを1枚ずつスキャンして保存する必要もなくなり、物理的な保管場所に悩まされることもなくなります。

どうしても紙の QSL カードが必要な場合は、その都度印刷すれば済む話です。そして何より、JARL の QSL ビューローがこうしたウェブサービスに対応していくことが、これからの時代には最善の方向ではないかと感じています(hQSL は Turbo HAMLOG ユーザー限定という制限があります)。

■ ■ ■

ちなみに、アワード申請の中には「紙の QSL カードの提示」が必要なものもありますが、これも今の時代にふさわしいのか疑問です。交信相手のログを利用するわけではないので、実質的には自己申告に近いものです。昭和の時代であれば QSL カードの偽造は困難でしたが、今やパソコンとプリンターがあれば模造も比較的簡単にできてしまいます。遊戯王やポケモンカードのように偽造防止を徹底しようとすれば、1枚あたり相当なコストがかかってしまいます。

私たちアマチュア無線家にとって、アワードに必要なのは「交信した事実が相互に証明できること」だけです。その意味で、ARRL の LoTW のような仕組みが最も信頼性が高いと感じています。

結局のところ、QSL カードの存在意義は「2回目、3回目の交信時に話題を広げるためのツール」であり、それには「交信中にすぐに QSL カードを閲覧できること」が不可欠です。QSL World のようなサービスはまさにそれを実現するものであり、写真入りカードを発行したくても印刷費用の高さから躊躇していた方々にも、デジタル化された今なら “映える” QSL カードを手軽に作成できます。

こうした新しい形の QSL カードが広がれば、QSO もより一層楽しいものになるでしょう。

 

www.jh1lhv.tokyo

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