前回の記事と重複する内容も含まれますが、今回は再び電波の方向探知に関する私見を交えた解説を行います。
盗聴器が仕掛けられた家屋の探索
盗聴器が発する電波はごく微弱であるため、無指向性のホイップアンテナと指向性を持つ八木アンテナを切り替えながら、受信機の S メータを参考に探索(UV-K5 の場合は、受信レベルが数字で表示されるファームウェアが便利です)すれば、比較的容易に送信源を特定できます。また、家屋内に仕掛けられた盗聴器は、各部屋の電源コンセント周辺を丹念に調べることで、ほぼ確実に発見することが可能です。(時に、ぬいぐるみや時計、蛍光灯の中も・・・)
ただし、ここで注意すべき点は、上記方法はあくまで受信機にセットした特定周波数に対してのみ有効であることです。本格的な探索となると、いわゆる「盗聴6波」などのメジャーな周波数帯に限らず、仕掛ける側が無数の周波数を利用する可能性があります。さらに、近年ではデジタル波を送信する盗聴器も存在します。これらを含む広帯域探索には、TinySA などのハンディタイプのスペクトラムアナライザーを使用することが有効です。家屋のブレーカを操作しつつ、スペクトラムの変化から怪しい信号を割り出せば、効率的な探索が可能となります。
違法無線局(固定)の突き止め方
意図的に妨害電波を発する違法無線局や、アマチュア無線のメインチャンネルで何らかの原因によって長時間無変調状態となっている局を探し出す場合、送信出力が比較的大きいため電波の到達範囲は数十キロにも及びます。そのため、複数人の協力者とともに三角測量法を用いることが効果的です。
三角測量法は、指向性のある八木アンテナとコンパスを用いて3地点から最も電波が強く感じられる方向(ピーク)を特定し、地図上でそれぞれの方向線を引き、その交点近傍を送信源の位置として絞り込みます。この際、可能であれば前回紹介したループアンテナとセンスアンテナの組み合わせを利用し、電波が急峻に変化する最小点(ヌル)を探ることで、より精度の高い測位が期待できます。さらに、見通しの良い場所や高台で測定すれば、不要な反射を減らし、より正確な位置特定が可能です。
おおよその送信位置が特定できたら、実際にその付近へ移動します。大まかな位置が判明した段階では、八木アンテナは役に立たないので、ホイップアンテナへ切り替えて、受信機への入力信号を弱めます。理想的には、送信源に近接しても S メータが中程度を指すよう、ATT(減衰器)や受信機のシールドなどで調整できればよいのですが、非常に強い電界のため、受信機がフルスケールで飽和してしまい、送信源を探し出すことが難しいかもしれません。
とはいえ、送信源が家屋などの大きな建築物の場合は、比較的発見は容易です。特にアマチュア無線局が無変調を送信している場合は、屋外に設置されているアンテナを目印にすることで、迅速に該当局を発見できるはずです。
Fox ハンティング、ARDF の送信源探索
アマチュア無線で行われている Fox ハンティングや ARDF(Amateur Radio Direction Finding)は、隠された小さな送信機を、受信機や指向性アンテナ、地図、コンパスなどを駆使して見つけ出す遊びや競技です。探索対象である送信装置は非常に小型であり、強電界の中でその装置自体を見つけることは非常に困難です。しかし、この困難なことを技術的工夫で克服することこそハムの楽しみであり、世界中の多くのハムたちが独自のアンテナや探索機器を製作してブログなどで発表しています。
実際の探索方法として、地理的に広範囲な場所に隠されている場合は、前述した違法無線局探索と同様に、三角測量法から始めます。一方、指定された公園など、比較的狭い範囲内に送信機が隠されている場合、もはやその公園内は強電界エリアであり、受信機の S メータはどこに行っても振り切れる状況が想定されます。この種の競技では、いかに受信機に入る電波を減衰させるかが鍵となります。たとえ指向性アンテナを用いていても、S メータで確認できるほどに受信入力を弱められなければ、小型の送信装置を見つけることは難しいでしょう。すなわち、電波の減衰技術の優劣が勝敗を左右します。
アンテナの取り外しや身体の向きの変更、スケルチ調整、外付け ATT の利用などが有効ですが、それでも S メータが振り切れる場合は、意図的に受信周波数をずらす方法もあります。また、海外ハムが紹介している「オフセット・アッテネーター」と呼ばれる自作装置を用いて、疑似的な ATT として機能させることも有用のようです。さらに前述した TinySA を用いて高調波を測定する手法も有効と考えられます。
① 3カ所で電波を受信して方位を特定
② それらを地図上に交差させて、おおよその位置を割り出す
③ その場所へ移動し、受入力を減衰させながら送信機を特定する
まとめ
電波の方向探知は、盗聴器の発見、違法無線局の特定、Fox ハンティングなど、様々な場面で活用されています。それぞれの目的に応じて、アンテナの種類や探索方法を使い分けることが重要です。また、受信機に入力する電波を弱める工夫も必要不可欠です。
今後は、「オフセット・アッテネーター」の製作や、tinySA による高調波の測定について、実際に試してみたいと思います。