JH1LHVの雑記帳

和文電信好きなアマチュア無線家の雑記帳

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アンテナのマッチングに必要な回路定数を求める

アンテナにマッチング回路を挿入して、強制的に SWR = 1.0 にする、そんなお話です。

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これは自宅の V型アンテナです。
7メガ CW バンドの SWR を NanoVNA で測定すると、1.8 とちょっと高めです。

今どきのメーカー製ムセンキなら最初からアンテナチューナが内蔵されているので、ムセンキで見る SWR は強制的に 1.0 にしてくれますが、QEX などのキットにはそんな立派な機能はないので、もう劣悪なアンテナを繋いだりしたら、それこそ終段に大きな負担をかけてしまいます。

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ということで、この自宅の V 型アンテナの SWR = 1.8 を SWR = 1.0 にするためには、どんなマッチング回路が必要になるのか、机上ではありますが求めてみました。

まぁ一般的には、アンテナマッチングといえば複雑な複素数計算や、スミスチャートとアドミタンスチャートが一緒になったイミッタンスチャートなんかを使って回路の定数を求めていくと思いますが、今回はそんな小難しい理論はどこかに忘れて、今ではハムの必需品となっている NanoVNA を使って測定したデータと、QucsStudio という高周波回路シミュレータを使って、超簡単に、サクッとマッチング回路を作ってみようと思います。

NanoVNA で測定

NanoVNA を使った SWR 測定は、もう慣れたもんじゃないでしょうか。
で、今回のマッチング作業ではデフォルトの SWR 表示に加えて、スミスチャートとリアクタンス表示も CH0 に追加しておきます。

測定周波数:7.020MHz(CW バンド)

(NanoVNA の設定)

  • CH0 : 黄色 → SMITH
  • CH0 : 緑色 → SWR
  • CH0 : 水色 → REACTANCE
  • Sweep : 6.9MHz~7.3MHz

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NanoVNA の測定で、V 型アンテナの 7.020MHz におけるインピーダンス Z は、

  Z = 75.9 - j 28.44 Ω

ということが分かりました。

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つまり、アンテナマッチングとは、アンテナのインピーダンスである 75.9 - j28.44 を、マッチング回路を挿入して、強制的に 50.0 -j0 にすることをいいます。

実数部の 75.9Ω を、ムセンキのアンテナ端のインピーダンスと同じ 50Ω に、そして虚数部の -j28.44 を 0 にするため、マッチング回路というコイル(インダクタンス)とコンデンサ(キャパシタンス)を直並列にした回路を挿入して強制的に合わせることをします。

 

QucsStudio でマッチング回路を作成する

高周波回路シミュレータの QucsStudio は、下のリンクからダウンロードできます。
ZIP を解凍して、start.bat で起動できます。

qucsstudio.de


QucsStudio 起動

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必要なパーツを配置

信号源 50Ω(無線機側)、抵抗 75.9Ω と コンデンサ 797pF(アンテナ側)を配置します。

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無線機側の 50Ω と、アンテナ側の 75.9 - j28.44 Ω をマッチングさせます。

マッチング回路の生成

次に、QucsStudio の "Matching Circuit" 機能を使って、マッチング回路を生成します。
Tool → Matching Circuit を選択すると、専用のウィンドウが表示されます。

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50Ω にマッチングさせるためのアンテナ側の諸元を入力します。
f : 7.02MHz、75.9 -j28.44 を入力します。(虚数部のマイナスは - を付けて入力します。)

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マッチング回路は自動で生成されるので、それを先に描いた回路のワイヤ上に配置します。

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これだけの操作で、超簡単にマッチング回路に必要なパーツの定数を知ることができました。

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S パラのシュミレーションもやってみました。
スミスチャートの r=1 の点になっていて、マッチングが取れていることが分かります。
 

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ということで、無線機の後ろにこの定数の LC 回路を挿入すれば、7.02MHz の SWR は 1.8 から 1.0 に強制的にマッチングさせることができます。
(FT-950 などのアンテナチューナ内蔵のムセンキでは、こういうことを自動でやっています。)

NanoVNA と QucsStudio を使うことで、アンテナとムセンキのマッチングに必要な回路定数を、こんなにも簡単に求めることができました。

ちなみに、L = 0.969μH(1μH)のコイル製作に必要な情報は、このブログでたびたび紹介している iOS アプリの "RF-Toolbox" を使って、簡単に求めることができます。

空芯コイルの場合

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例えば、銅線を直径 20mm で 11回巻いて、その長さを 50mm にすれば、インダクタンスは 1μH になります。

トロイダルコアの場合

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例えば、T50-2 のトロイダルコアにエナメル線を 14 回巻くことで、そのインダクタンス は 1μH になります。

 

(参考)イミッタンスチャートを使う方法

QucsStudio を使うことでマッチング回路の定数は簡単に求められましたが、参考までにイミッタンスチャートを使って同じことをやってみます。

これを紙のチャートだけを使って求めるのは流石に手間がかかって、かえって難しくなってしまうので、今回はオンライン上で動作するウェブアプリの "QuickSmith" を使って、簡単にインピーダンスマッチングに必要な定数を求めてみます。

quicksmith.online

(イミッタンスチャート)

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スミスチャート → コイル、コンデンサの直列接続
アドミタンスチャート → コイル、コンデンサの並列接続

QuickSmith 起動
”Admittance Circles” をクリックして、アドミタンスチャートを表示させます。

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最初の出発点を、NanoVNA で得た定数とするため、抵抗を 75.9Ω に変更し、コンデンサ 797pF を直列に挿入します。 

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※周波数入力ボックスのダブルクリックでステップ幅が変更できるんですが、この資料作成中はそのことを失念してしまい、7.00MHz のままで進めてしまいました。。。

75.9 - j28.44 を 50Ω で正規化すると、チャート上の位置は 1.518 - j 0.568 となります。

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この4つの基本トポロジーを考慮しながら、インダクタンス、キャパシタンスを挿入して、チャート上のマーカを中心の r=1 へ移動していきます。

まず、コンデンサを並列に挿入します。
コンデンサの記号をドラッグ&ドロップして、+、ーボタンで定数を調整します。

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125pF の並列挿入で、マーカは "等コンダクタンス円" を時計回りに移動し、r=1 の "等レジスタンス円" まで移動してくれました。

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続いて、コイルを直列に挿入します。

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969nH(0.969μH)の直列挿入で、マーカは "等レジスタンス円" を時計回りに r = 1 (50Ω) まで移動してくれました。

この時の Zin は 50.185 - 0.143i で、負荷に対して実数部はほぼ 50、虚数部はほぼ 0 となり、マッチングが取れたことが分かります。

なお、マッチングのさせ方(移動方法)は、2通りあります。

  1.  ① ”等コンダクタンス円” を、時計回りに移動(コンデンサを並列)
     ② "等レジスタンス円" を、時計回りに移動(コイルを直列)

  2.  ① ”等コンダクタンス円” を、反時計回りに移動(コイルを並列)
     ② "等レジスタンス円" を、反時計回りに移動(コンデンサを直列)

今回は、1 の方法でマッチングを取っています。

最後に

今回は、スミスチャートやアドミタンスチャート、イミッタンスチャートなどのインピーダンスマッチングに関する基本的な説明は省略して話を進めていきましたが、NanoVNA と高周波回路シミュレータの QucsStudio、そしてオンライン上で動作するウェブアプリの QuickSmith で、アンテナのインピーダンスマッチングに必要な回路のパーツの定数を簡単に求められることがお分かりいただけたんじゃないでしょうか。

また、各チャートの扱いに関する小難しい理屈につきましては、少しずつ、必要になったときにでも学習していけばいいんじゃないかと思います。

本記事の間違いは、判明次第修正していきます。
よろしくお願いします。