tinySA を使用して、UV-5R(中華製の V/U 機)のスプリアス測定を行いました。
なお、スプリアスとは、本来の送信目的とは無関係に発生する不要な信号のことで、他の通信に妨害を与える可能性があるため、本来は存在しないことが理想とされています。

驚くほど安価(約 2,000 円程度)で購入できる中華製の V/U 5W 機を、tinySA というこれまた手頃な価格のスペクトラム・アナライザで大まかにスプリアスを測定してみました。
ただし、tinySA による測定といっても下記のような制約があります。
- tinySA 本体(測定器そのもの)の校正を行っていない
- 実質的に正確な測定ができるのは 350 MHz まで(350 MHz ~ 900 MHz はオマケ程度)
- そのため、145 MHz 帯の 3 次高調波ですら正確に測定するのが難しい
以上を踏まえ、今回のデータはあくまでも目安・参考程度のものとお考えください。
(新スプリアス規定の下で測定した結果を申請に使う場合、測定器(スペアナ)は 1 年以内に校正されたものである必要があるなど、規則上の要件があります。ハムのような趣味の範疇で個人が実際に申請するのは、かなり難しいのではないかと個人的には思っています。ただし、JARD 経由で申請を行う場合、厳密には校正されていない測定器で得たデータでも保証してもらえるという話もあるようです。)
さて、UV-5R ですが、調べる前から予想はしていたものの、
新スプリアス規定を満たしている可能性はおそらく低いでしょう。
(実はずっと以前、RIGOL のスペアナで確認した際にも、スプリアスがかなり厳しい状態でした。ところが、このような状態の無線機でも、ハムバンド外の送信を制限するだけで J〇RD や T〇S などの保証認定が下りているという話もあるようです。真偽は不明ですが、もし本当ならちょっと疑問が残るところです。)
本気で無線設備規則に合格させたいなら、やはりフィルタが必要になります。しかし、フィルタを購入すると値段がかなり高くつきますし、自作するにしても手間がかかります。結局のところ、中華製の安価な無線機というのは、後々思わぬコストや手間を要することが多いように思います。そのため、交信目的で最初から無線機を選ぶのであれば、保証認定を取得済みの国内製 V/U 機を購入するのが、長い目で見ると費用対効果が高いのではないかというのが正直なところです。
(とはいえ、フィルタの自作などでスプリアスを低減し、規定を満たすように追い込んでいくというのも、ある意味「ハムらしさ」を体現する楽しみの一つかもしれません。)
関係資料
以下、新スプリアス規定に関する資料のリンクです。
〇 スプリアス測定の関係省令(無線設備規則、別表第3号)
〇 無線設備のスプリアス発射の強度の許容値(総務省、新スプリアス規格)
〇 無線設備の「スプリアス発射の強度の許容値」の見直し(総務省、概要資料)
ハムバンドにおける測定条件など
総務省の関係資料からハムに関係するところだけを抜粋して表にまとめてみました。
ただし、誤記や解釈違いがあったりするので、実際に測定する際には必ずご自身の目で総務省公示の関係資料などを今一度ご確認をお願いします。


(Google スプレッドシートで作成)
UV-5R の 145.00MHz を測定してみる
まず、UV-5R のスプリアス測定に先立ち、総務省資料などを通読し、資料「2ー1 スプリアス領域と帯域外領域の境界」図に、145.00MHz における諸条件をメモしました。

(総務省、資料)無線設備の「スプリアス発射の強度の許容値」の見直し
必要帯域幅(BN) = 16KHz
145メガ帯での(Bn)16KHz は、狭帯域の 25kHz 未満(上記表)であるため、
搬送波 = ±2.5Bn = ± 62.5KHz(Bn を 25KHz で計算)
となり、これが帯域外領域とスプリアス領域を区分する境界となります。
(Bn は、チャネルが規定されているときは、チャネル間隔でもよいとされているみたいです?)
測定周波数は免許状に書いてある周波数(そのバンドの中心周波数)を使います。
電波型式は、帯域外領域の測定では無変調、スプリアス領域では変調あり、となります。
(tinySA の設定値)
- 周波数範囲: 0.1MHz ~ 350MHz(LOW)
本来の規則では 145メガなら、9KHz ~ 1.45GHz(10倍の高調波)となります。 - 分解能帯域幅(RBW): 145メガでは、100KHz(実際の測定では RBW を 3KHz に設定して、100KHz で補正が必要です。)
- ビデオ帯域幅(VBW): tinySA には VBW の設定項目はないため、代わりに "LEVEL / CALC / AVER" 機能を使います。
【分解能帯域幅(RBW)】
近接周波数の信号を分離し表示するためには、分離できるだけの分解能が必要で、tinySA の IF フィルタより 3dB 帯域幅以上離れている必要があります。この IF フィルタの 3dB 帯域幅を、分解能帯域幅(RBW)と呼びます。
【ビデオ帯域幅(VBW)】
検波器と表示器の間に入っている LPF で、この帯域幅を制限することでノイズに埋もれてしまう信号を検出することができます。tinySA では "LEVEL / CALC / AVER" 機能で代用します。

UV-5R を 145.00 MHz に設定し、FM 変調をかけて送信すると、tinySA の画面にはこのようにスプリアスの状況が表示されます。
ちなみに、画面にある「dBc」は、基本波と不要発射との相対電力比を示す指標です。帯域外領域やスプリアス領域では、-60 dBc 以下になっていることが求められます。
この例の場合、145.00 MHz の基本波に対し、2 倍高調波(f2 = 290.00 MHz)のスプリアスが 60 dB 以上低くなければならない、ということになります。
測定準備
スペクトラム・アナライザ(スペアナ)を使用するうえで最も重要なのは、「仕様上の最大入力を決して超えないこと」です。ほんの一瞬でも最大入力を超える信号を与えてしまうと、tinySA は故障し、いわゆる “文鎮” 状態(ゴミ同然)になってしまう危険性があります。
tinySA の最大入力:+10dBm(10mW)
UV-5R は最大出力が 5W あり、dBm に換算すると約 +37 dBm に相当します。
もし、UV-5R のアンテナ端子を直接 tinySA の SMA コネクタにつないでそのまま送信してしまったら、tinySA の最大入力を大幅に超えてしまうため、確実に故障します。
tinySA の安全性を考慮すると、入力レベルは最大でもおよそ 0 dBm 程度に抑えるのが望ましいでしょう。
UV-5R の最大出力 5W は +37dm に相当するため、少なくとも 40dB 以上の減衰をかけてから tinySA に入力する必要があります。
電力レベルを計算する際は、万が一トラブルが発生しても最大電力で送信されることを想定してください。そうしないと、大きな事故や損害につながる恐れがあります。システムが正常に動作し、安定したセットアップが確認できたら、必要に応じてレベルを微調整しましょう。
また、電力レベルを dBm で考える方法(例:100mW = +20dBm)を習得すると、計算がより容易になります。電力は dBm、ゲインや減衰は dB で表すのが原則であり、ワット(W)では計算が煩雑になるので注意が必要です。
さらに、アナライザーには複数の電力制限が存在します。なかでも最高レベルである “ダメージレベル” は特に注意が必要です。また、入力減衰器にも許容できる電力に制限があるため、各機器の仕様を十分に確認して運用してください。

UV-5R を直接 tinySA に接続したまま送信すると、tinySA は一瞬で故障してしまいます。
接続例1

UV-5R の出力が 5W あるため、5W 以上の耐電力を備えた 40 dB アッテネータ(ATT)を挿入して測定します。
接続例2

送信機の出力が大きい場合、1 つのアッテネータ(ATT)だけで減衰させようとする、アッテネータ自体の耐電力も高く必要になり、価格も上昇してしまいます。そこで一般的には、CM 型方向性結合器(通称:方結、カプラ)を利用し、出力信号の一部だけを取り出す方法が使われます。
方結からダミーロードへ大半の電力を流しつつ、少量の信号をさらにアッテネータで減衰させて tinySA に入力すれば、およそ 0 dBm 程度までレベルを下げることができます。
測定に必要なジグとケーブル
このような測定を行う際には、無線機のアンテナ接栓や測定器側のコネクタ形状に合わせて、写真のようにさまざまな変換コネクタやケーブルを用意する必要があります。

N、M、BNC、SMA など・・・
これだけあれば大丈夫と思いきや、ちょうどいいヤツがなくて、2,3個のコネクタを組み合わせることも多々あります。。。

各種測定用として、短めのケーブルもあると便利です。

スペアナの最大入力をゼッタイに超えないようにするための必需品。
CM 型方向性結合器、ATT、ダミーロードのいろいろ。
以下、過去記事です。参考にしてください。
測定開始
UV-5R と tinySA との接続は、方向性結合器を使う「測定例2」で行いました。
144メガ帯では、9kHz~1.5GHz のすべての範囲で、そのスプリアスは基本波の -60dB 以下に抑えなければならないと規定されています。

方結 20dB + ATT 20dB = 40dB
UV-5R の送信出力 5W を 40dB 減衰させて、-3dBm を tinySA の入力としました。

測定結果の画面です。
START 0Hz ~ STOP 350Hz、RBW 100KHz
第2高調波 -43.8dBc
スプリアス領域での規定である -60dBc を 16.2dB も満たしてません。(これは完全に NG です!)

帯域外領域を超えたあたりのスプリアス領域(MAKER2)の状況です。
CENTER 145.00MHz、SPAN 10MHz
ここは -60.5dBc で、ギリギリセーフ。

帯域外領域の測定です。
CENTER 145.00MHz、SPAN 1MHz
必要周波数帯幅(BN)付近で -60dBc を確保できてません。
赤線のようなスペクトラムにならないと、ダメということです。
(ただし、tinySA の精度上の問題から、この帯域外領域測定は多分に誤差を含んでおり、tinySA 自身のひずみによる場合もあります。)
(2020/11/17 追記)
この「帯域外領域の測定」に、誤りがありました。
RBW を 100KHz にして測定を行いましたがこれは間違いで、これでは FM の搬送波を必ず超えてしまい、この写真のような悪い状態になってしまいます。正しくは、RBW = 3KHz で測定し、100KHz の換算値(10log (100KHz / 3KHz) = 15.2dB)で補正する必要があります。
-60dBc - 15.2dB = -75.2dBc
また、この「帯域外領域の測定」では、スペアナ自身の雑音性能も大きく影響するので、tinySA で測定するのはムズカシイことなんじゃないかと思っております。
ということで、測定ミスした上記の写真を削除することも考えましたが・・・測定失敗事例としてそのままアップすることにしました。今後もミスが見つかればその都度で加除修正は行っていきますので、どうぞよろしくお願いします。
取り急ぎ、再測定してみました。

帯域外領域の測定
CENTER 145.00MHz、SPAN 100KHz、RBW 3KHz
tinySA には VBW の設定はないので、CALC → AVG をオンにして測定しました。
帯域外領域の境界付近の 145.012MHz で -45.6.dBc (ノイズが影響して正しくは分からない)でした。
RBW 100KHz の換算値で補正すると -60dBc は -75.2dBc となるので、この計測値が正しいとするならば、新スプリアス規定から約 30dB 外れていることになります。
ただし、この帯域外領域の測定は、tinySA の性能(雑音性能)にモロに影響を受けるため、結果は眉唾物であくまでも参考ととらえる必要があります。
それと、私自身がまだ tinySA のことはよく分かっておらず、また、測定機器の扱いや測定方法に関しても不慣れなところも多く、所々誤りがあるのではないかと危惧しております。
この辺りのことについても、修正があれば速やかに行っていきます。
国内において tinySA が NanoVNA のように盛り上がるのはこれからだと思います。
そして近い将来、技術的にしっかりした解説記事などが、諸OM諸氏により次々と雑誌やウェブなどへ投稿されると思います。
私自身、それを楽しみにしながら、tinySA を使いこなせるよう精進していこうかと思います。
(以上、2020/11/17 追記)
(参考)RIGOL DSA815
ちなみに、DSA815 の測定結果は以下のとおりです。

第3高調波(145×3=435.00MHz)から上の次数の高調波は、1.5GHz までゼロだったので、
CENTER 350MHz、SPAN 500MHz で測定しました。
第2高調波(290.0MHz)-43.2dBc
第3高調波(435.0MHz)-32.7dBc
もう、第3高調波が凄いことになってる。
このスプリアス・・・改善するってキビシイよ。
ちなみに、350MHz までですが、tinySA と DSA815 の測定結果はほぼ一緒ですね。
(参考)e.i.r.p. 法
参考までに、付属の伸縮アンテナを使って測定してみました。

UV-5R のアンテナ接栓にはダミーロードを接続します。
(免許を持たないまま UV-5R で電波を発射することになるため、ダミーロードの使用などによって空間へ電波が放射されないよう、十分ご注意ください。)

tinySA は広帯域受信機と同様の特性を持つため、伸縮アンテナを接続するだけでも
何らかの電波を受信してしまいます。

UV-5R の基本波および第 2 高調波は、tinySA 上で「MAKER1」「MAKER2」として示され、第 2 高調波(290 MHz)は -20.3 dBc となりました。
この数値は、方結を使用して測定したときよりも悪い結果です。
なお、tinySA でスプリアスを測定する場合、e.i.r.p. に基づく方法よりも直接入力(ケーブルで接続する方法)のほうが、より正確にデータを得られると考えられます。
EIRP 法 について(本来の e.i.r.p. の測定は、以下の通りです。)
EIRP (Effective Isotropic Radiated Power、等価等方輻射電力) は、無線機器から実際に放射される電波の強さを表す重要な指標です。
(EIRP の計算)
測定された電力値から以下の要素を考慮して計算します。
・測定アンテナの利得
・ケーブルでの損失
・自由空間での伝搬損失
・アンテナ係数
例えば、以下のような計算式になります。
EIRP = 測定値 + ケーブル損失 + 自由空間損失 - アンテナ利得
(測定時の注意点)
・反射の影響を避けるため、電波暗室や開放地で測定することが望ましい
・周囲の電波環境をチェックし、外部からの干渉を避ける
・測定機器の校正が適切に行われていること
tinySAは、業務用機器と比べて測定精度が低く参考値として扱う必要があり、法規制への適合性確認には使用できないほか、ノイズフロアが高いため微弱な信号の測定が困難で、さらに温度ドリフトの影響を受けやすいため安定後の測定が必要となります。
終わりに
tinySA を使用して中華の激安ハンディ機 UV-5R の 144MHz 帯におけるスプリアスを測定した結果、帯域外領域とスプリアス領域の両方で基準値の 60 dBc 以下を満たすことができませんでした。
この問題を改善し電波監理局への申請を行うには、送信回路へのフィルタ追加などの基板改造や、30 dB 以上のローパスフィルタの実装が必要です。特に V/U 帯用フィルタは市販品が少なく、耐電力を考慮しながら自作する必要があります。また、高周波の V/U 帯において、受信感度や送信出力を維持しながら適切な挿入損失のフィルタを自作することは非常に困難です。
このように、UV-5R は 2,000 円という低価格に魅力を感じるかもしれませんが、技術基準を満たさない無線機であることが測定により明確になりました。すでにお持ちの方は、送信機能を無効化し、受信専用として使用することをお勧めします。
UV-5R をすでにお持ちという方は、送信用の PTT ボタンを取り外して、受信専用として使うことを考えてみてはいかがでしょうか。
